第3回 ローマでぼったくりタクシーの被害に遭う!

友人とツアーに参加して行ったのがイタリアだった。北のミラノから入り、最後はローマでフリータイム。お約束の旅程である。そしてローマのお約束と言えば、コロッセオをはじめとする数々の遺跡物に感嘆し、トレビの泉では後ろ向きにコイ...
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友人とツアーに参加して行ったのがイタリアだった。北のミラノから入り、最後はローマでフリータイム。お約束の旅程である。そしてローマのお約束と言えば、コロッセオをはじめとする数々の遺跡物に感嘆し、トレビの泉では後ろ向きにコインを投げ入れ、スペイン広場に行けばオードリー・ヘプバーンよろしくジェラートを舐め、そして真実の口に手を入れて「ワーッ、抜けない!」なんて演技をするものである。私もそのつもりであった。現に、オードリーを気どってジェラートを舐めたところまではよかった。(余談だがこのジェラートはナカタ・スペシャルというタイトルで元サッカー選手の中田英寿選手の名がつけられていたが、肝心の味を覚えていない)

金網の間にレンズを入れて撮った真実の口

真実の口のあるサンタ・マリア・イン・コスメディン教会へ行ってみると、なんと真実の口の周囲が金網に覆われている。聞くと、改修工事があったようで、近くへ寄れないのだとか。ローマまで来て、真実の口で「手が抜けない!」とお約束の演技をすることは叶わないのか。友人と落胆したが、とりあえず金網の穴からなんとか真実の口のあの呆けたようなお顔をカメラに収める。それが済むと、夕食の時間もあるしと、さっさとホテルに戻ることにした。

タクシー乗り場に向かっていると、私たちのすぐ横に一台のタクシーが停まった。窓からドライバーが尖った顎をだし、「OK、ここで乗せてあげるよ」と言う。「え、タクシー?」数メートル先のタクシー乗り場に急いでいるのにタクシーの方から来てくれるとは……本来なら、「怪しい」と思うべきことである。今の私なら乗らない。しかしその時、何を血迷ったのか、歩き疲れて真実の口に門前払いを食らったことでそんなに気落ちしていたのか、私たちときたら、タクシーの方から声をかけてくれたことを「ありがたや」とさえ思ったのだった。つまりは、乗ってしまったのである。

総じて海外のタクシーのドライバーは、こちらが東洋系であるのを見ると「どこから来たの?」と聞いてくる。そして「日本」と答えると、「日本好きだよ!」とチップの上乗せでも期待しているのか、日本人へのリップサービスを怠ることはない。そしてその言葉にこちらが嬉しそうににやにやしていたら、「ソニー、トヨタ、トーシバ……」と全然私個人とは関係のない企業名を挙げ始める。このローマのドライバーもそうだった。

そうですか、ソニー好きですか、それはよかった……なんて適当に相槌を打ってふと車窓を見やると、いつの間にやら街中の小高い山の車道を走っている。

「これホテルへ行く道ですか?」怪訝に思いドライバーに聞くと、「イェス、この丘を突っ切って行けるよ。この丘からの眺めは、最高なんだ」と言う。しかしそのドライバーの言葉の合間に微妙な意図を感じ、その瞬間に「図りおったな」と悟った私は、「急いでいるので、景色なんかどうでもいい、早く行って!」と強い調子でドライバーに言った。するとドライバーは突然車を停め、「ほら、景色を見て!」とローマの街が一望に見渡せることを私たちにアピールし、「じゃあ、30ユーロ」と手を出してきた。

「はあ……?」友人と私は驚愕して顔を見合わせた。ふざけるなと思いながらも、落ち着いて、「景色を見せろと頼んだ覚えはない!」と言った。しかしドライバーは少しも動じず、「じゃあここで降りるんだな」とこちらを脅してきたのだ。

こんな山の中で降ろされたら堪らない。かと言って、相手の言う通りに支払うのも腹が立つ。仕方なく、「これだけ!」と10ユーロ札を差し出した。すると、ドライバーは前を向いたまま、手を差し出して「30ユーロ」とまだごねる。いい加減腹が立った(腹も空いていた)私はイライラして、「NO! さっさとホテルに行け!!」と、無意識ながら、その10ユーロ札をドライバーのしゃくれた顎に叩きつけてしまった。突然の怒りの鉄拳に相手もびっくり。慌ててホテルまで車を飛ばし、無事ホテルに着いた。

指先に気持ちがこもり過ぎた結果

こうしてローマの休日は終わった。今思えばタクシーの方から来る時点で怪しかったのだ。その後、海外のタクシーに私が敏感なのは言うまでもない。 ちなみに事件からホテルまでの道中、友人はおろおろしたまま怖がっていたが、怒りの収まらない私は相手が日本語を分からないのをいいことに、車内で「ふざけんなっつうの! この○△×!!」とココに書けぬ暴言をドライバーに向かって撒き散らしていた。これが乙女の真実の口だった。

河野友見(こうの ゆみ)/プロフィール
広島市出身。ネタを求めて渡り鳥のようにあちこち飛び回る傾向がある。好物は中世・文学・ビール・アート・ユニオンジャック。ゴールデンウィークに小学校の同窓会がありました。20年ぶりに会うクラスメイトたち、お互い顔見て「分かる分かる!」と大盛り上がり。30年後に集まっても、「あんた誰じゃ?」って言われぬよう気を付けたいです。