第4回 年越しそば-日本-

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年越しそば

暦と食べ物とは、切っても切れない関係にある。どこの国でも、暦の上の行事に必ず食べるものがあるものだ。もちろん、日本にも。そして、年末に欠かせない食べ物といえば、年越しそば。今でも、多くの店がシャッターを下ろす中、そば屋だけは12月31日の夜まで多くの人で賑わう。

大晦日にそばを食べるという風習は、江戸時代の中ごろに広まったという。その理由には諸説あるが、よく聞かれるのが、細長いそばにあやかって人生を長く達者に送れるように、という願いを込めて食べるという説。もっとも、この理由からすると細長ければなにもそばでなくてもいいわけである。実際、当時は細長ければなんでもよかったとする逸話もつたわっており、関西など地方によっては太く長く、運を呼ぶ「うんどん」つまりうどんを食べるところもあるらしい。

江戸っ子らしい理由といえば、そばが切れやすいことから、その年の労苦や災難、借金などをすっぱり断ち切って新しい年を迎えるため、という説がある。宵越しの金は持たないといえば江戸っ子の気風のよさを示すが、バツの悪いことは年越ししない、というのはちょいとご都合主義が過ぎるのではなかろうか。

一方、景気のいいところでは、年の瀬に金が集まるようにという縁起をかついだ、という説もある。金を扱う細工職人は、製作過程で散らかった金粉を集めるのに、そば粉を水で練ったものを金粉に押し付けてそれを水につけた。そば粉は水に溶けて金粉だけがそこに沈むそうだ。これにあやかって、たくさん金があつまるようにということらしい。個人的にはいささかこじつけがましいと思わなくもないが。

このほかにも諸説あるが、いつ食べるかということにまで、バリエーションがあるのは意外である。年越しそばというくらいで、年内に残さず食べきらなければ縁起が悪いとするところがほとんどだが、年明けに食べる、あるいは、小正月と呼ばれる1月15日の前日に食べるという地域もある。

日本のような小さな国のささやかな風習にも、かつてのお国柄の違いがこれほどあるのだから、広い世界にいろいろな違いがあるのは当然のこと。互いの文化を尊重しあえる世の中になってもらいたいと願いながら、細くきりっと締まったそばを濃~い汁で、今年のうちにとせっかちにかっこむ江戸っ子の私である。

≪福子(ふくこ)/プロフィール≫
東京在住。アジアを中心に、旅モノと食べモノをメインテーマに飛び回る日々。いよいよ今年もおしまい。よく食べたなぁ。新しい年も、また新しい味を求めて、未踏の地に行こう…行きたい……行けるといいな。