第4回 市民がつくった電力会社

2022年に脱原発を決めたドイツ。南ドイツのシェーナウ電力会社はチェルノブイリ原発事故による反原発運動から生まれ、1997年より電力供給を始めました。当時は市内1700戸だけでしたが、電力自由化となった現在はドイツ全土1...
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シェーナウ電力会社が支援して設置されたソーラーパネル

2022年に脱原発を決めたドイツ。南ドイツのシェーナウ電力会社はチェルノブイリ原発事故による反原発運動から生まれ、1997年より電力供給を始めました。当時は市内1700戸だけでしたが、電力自由化となった現在はドイツ全土13万5000の顧客に再生可能エネルギーを供給しています。

1986年のチェルノブイリ原発事故では1600km離れたシェーナウ市(人口2500人)でも放射線が検出され、野菜や牛乳を廃棄しました。しかしドイツ政府は「危険はない」を繰り返すばかり。5人の子どもを持つ主婦のウルズラ・スラーデクさんや教師、警察官、医師など有志10人ほどで「原子力のない社会をつくりたい」と市民団体を結成しました。省エネコンテストを開いたり、チェルノブイリで被ばくした子どもたちを受け入れるなど地元の人たちを巻き込んでいきます。

当時西ドイツの電力供給は公社か私営電力会社による地域ごとの独占が一般的でした。シェーナウ市には大手電力会社が供給していましたが、節電や自然エネルギーを推進の視点が全くないため、メンバーたちは「自分たちで供給しよう」と組合制の会社を起業。電力購入先を決める市民投票を2度勝ち抜き、全国から支援を得て送電網を買い取るなど10年もの戦いの末、電力供給を開始しました。

シェーナウ電力会社は当時、反原発運動の象徴でした。ですから会社として成功し、今も成長しつつあるのは大きな意味があります。ウルズラさんは「人類にとって重要事項である電力が、一企業の利益追求の手段となっているのはおかしい。エネルギーは私たちの生き方や社会の発展に深くかかわっている」と考え、市民による地域分散型の発電を推進しています。原発の害について記した「原子力に反対する100個の十分な理由」は8ヶ国語に訳されており、日本語版もネットで無料公開されています。

最近、同社の取り組みを描いたドキュメンタリー「シェーナウの想い」が日本各地で上映され、すでに200回を越えました。私も6月に里帰りしていたので上映会に参加し、シェーナウの取り組みやドイツの脱原発事情についてお話させていただく機会を得ました。1998年の電力市場自由化、2000年の自然エネルギー固定買取価格制度以前に成功したシェーナウの取り組みは、日本でも大いに参考になるでしょう。日本での反原発運動についてウルズラさんは「ドイツでも脱原発を決めるのに時間がかかりました。あきらめず反対し続ければ、必ず成功します」と、応援しています。

田口理穗/プロフィール

『市民がつくった電力会社 ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』(大月書店)

このほど、大月書店より『市民がつくった電力会社 ドイツ・シェーナウの草の根エネルギー革命』を出版しました。シェーナウ電力会社の詳細について、拙著をご参考いただければ幸いです。広島市と姉妹提携しているハノーファーで、原爆投下に関する平和イベントの一環として福島について話をしました。日本はなぜ脱原発を決めないのか、日本の人々は原発についてどのように思っているのか、など質問がたくさん出ました。日本の原発政策について興味を持ち、心配しているドイツ人がたくさんいます。