第5回 イギリスの給食事情

 
今年6月、スコットランドに住む9歳の小学生のブログが、世界中から注目を浴びた。※「ネバーセカンズ(おかわりはいらない)」と題されたそのブログは、マーサ・ペインちゃんによる、学校給食の写真と、その感想が記されたものとし...
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マーサ・ペインちゃんのブログ「ネバーセカンズ(おかわりはいらない)」

今年6月、スコットランドに住む9歳の小学生のブログが、世界中から注目を浴びた。※「ネバーセカンズ(おかわりはいらない)」と題されたそのブログは、マーサ・ペインちゃんによる、学校給食の写真と、その感想が記されたものとしてスタートした。ブログを始めた理由を聞かれ、彼女は「お腹がいっぱいにならないし、おいしくなかったから。毎日お腹がぺこぺこで家に帰る状況を分かって欲しかった」と答えている。

それもそのはず、掲載されているメニューの一例を挙げると、「小さなスクエアチーズピザとコロッケがひとつに数粒のスイートコーン、小さなマフィン」。また別の写真では、「チーズバーガー、コロッケ二つ、キュウリが三枚にアイスロリポップ」。盛りつけにセンスが無いのかもしれないが、確かにあまりに余白が目立つプレートである上、野菜がキュウリのスライス3枚という、明らかにビタミン不足のメニューには開いた口が塞がらない。マーサちゃん自身の、「わたしは成長期の子どもなんですけど、コロッケひとつで午後の授業に集中しろって言われても無理よ。誰かそんなことできる人いるの? 」とのコメントに、万人が頭を縦にぶんぶんと振ってうなずいた事だろう。その後はもちろん、ブログが話題になるとともに、スコットランドの学校給食への批判が高まり、自治体を中心に学校給食メニューの改善が図られるようになったという。

さて一方イングランドでは、スコットランドより一足先に、栄養の偏った質の低い給食に疑問が持たれ、給食改善が推し進められるようになった。この学校給食改善に率先して乗り出したのが、ご存知セレブ・シェフ、ジェイミー・オリバー。2005年には、彼の給食改善運動を記録した「ジェイミーズ・スクールディナーズ」が放送され、大きな反響を呼んだ。そして、子どもたちの親を始めとする27万人以上の署名と共に嘆願書が、時のブレア首相に提出されたため、英国政府は給食改善のための予算増額を発表することとなったのである。それ以降、「スクール・フード・トラスト」と呼ばれる給食の質を調査する専門家組織が作られ、学校給食のための食べ物・栄養に関するガイドラインが新たに制定された。それに従って脂肪分、塩、砂糖の多く含まれる食べ物は量の制限が設けられ、給食でのジャンク・フードが廃止されることとなった。例えば「ハンバーガーとチップス」は「ラム肉と野菜のパイ」に、「ソーセージロール」が「マッシュルームとレンチ豆のベイク」に取り代わった。結果として、2009年に政府によって行われた調査では、栄養バランスの良い食事をとった子どもたちの午後からの集中力や成績が3倍に伸び、病欠や問題行動の割合が低下するといった変化が見られている。

付け合わせの生野菜とパン       学校内にある配膳コーナー

さて先日、息子の学校へ「スクールミール・テイスティング」に出かけた。親に学校給食がどんなものかを理解してもらうため、サンプルメニューを試食できる機会を学校が設けているのだ。メインは「ビーフと野菜のラザニア」とベジタリアンの子どものための「ひよこ豆と野菜のカレー」。これに、ジャケットポテト、パン、フレッシュサラダの付け合わせがある。食べて見ると、さすがに塩加減は弱くシンプルな味付けではあるが、良く煮込まれた野菜がまろやかでなかなかおいしかった。子どもたちは、どちらかのメインメニューを自分で選ぶのだが、今のところベジタリアンの子どもはいないので、少しずつ両方の味を楽しむ場合が多いのだそうだ。新鮮な野菜のサラダが毎日食卓に上り、その必要性がすり込まれることも、親としてはとても喜ばしい。ただ、レタス、キュウリ、トマトが適当にカットされた状態のサラダには、特にドレッシングも何もかかっては無いのだが、子どもたちが特に疑問も抱かずに素直に食べていたのは不思議だった。

デザートはアップルクランブル             ひよこ豆のカレーとラザニア

その他のメニューを見てみると、ある日は「ラム肉のラザニア」、または「野菜のラザニア」、「温野菜」「カスタードクリーム付きバナナスポンジケーキ」。またある日は、「ローストチキンとローストポテト、グレイビーソース」、「冬の野菜のストゥルードル」、「キャベツとキャロットの付け合わせ」、「パイナップルスポンジケーキ」。ケーキの変わりにヨーグルトやフレッシュフルーツを選ぶこともできる。伝統的なイギリスのオーブン料理を始め、給食を通して子どもたちは様々な新しい料理を楽しむことができるようになった。好き嫌いばかりしていた息子も、友達と一緒に食べるのがうれしいのか、最近では何でも良く食べるようになったと学校の先生方からも言われる。これで一日2ポンド程度というのは、妥当な金額ではないだろうか。

イギリスにおける給食の改善は、未だ現在進行形の取り組みであるという。今後は、「食べ物が誰の手を伝って、どこからくるか」、「旬の食べ物とは何か」といった、食に関する教育が早い段階で導入される見込みである。マーサちゃんのように、給食を通して、食により興味を持つ子どもたちも増えてくるのかもしれない。彼女のブログを久しぶりに見てみると、趣向が少し変わって、世界中から届くとてもおいしそうな「今日のランチ」がたくさん紹介されていた。

マーサ・ペインちゃんのブログ「ネバーセカンズ(おかわりはいらない)」

平川さやか/プロフィール
フリーライター/フォトグラファー/メディアコーディネーター。北海道札幌市生まれ。ファッション、インテリア、旅、キッズの分野を中心に、取材、撮影、 執筆を手がける。日本の給食は、箸でふたつに割って食べるソフト麺のうどんとマッシュポテトの組み合わせが大好きでした。ヴァージンアトランティックのブログVもよろしくお願いいたします。