3 デンマークで体感した「子育てのバリアフリー」/デンマーク

先日、デンマークを訪問された日本の養護学校の先生が「障がいをもっている人を街でたくさん見かける!みんな楽しそう!」と感嘆していた。そういえば、電動車椅子に乗った人が買い物袋を持って街中を走っていたりするのは、デンマークで...
LINEで送る

先日、デンマークを訪問された日本の養護学校の先生が「障がいをもっている人を街でたくさん見かける!みんな楽しそう!」と感嘆していた。そういえば、電動車椅子に乗った人が買い物袋を持って街中を走っていたりするのは、デンマークではごく当たり前の日常風景となっている。

そもそも「ノーマライゼーション」という概念を世界で初めて提唱したのは、デンマーク人のバンク・ミケルセンであった。「ノーマライゼーション」とは、障がいをもっていても普通に生活を送れるような社会こそが正常であるという理念に基づいて、そのような社会を実現するための活動を意味する。

彼がこの概念を提唱してから50年以上の月日が経った今日、デンマークには、障がいをもっている人のみならず、社会的に弱い立場にある人が普通に生活を送れるようにするための多様なサポート体制ができている。サポートは多岐にわたるが、今回は私の実体験をもとに、出産・育児に関するサポートについてご紹介したい。

個人的な話になるが、私は今年デンマークで出産した。そこで強く感じたのは、子どもを生み育てる上でのバリアが限りなく小さいということだ。まず、医療費が無料なのである。妊娠中の定期検診、超音波検査、出産準備講座、出産がすべて無料で済んでしまうのだ。また、産後は、看護師が定期的に自宅訪問に来て、赤ちゃんの成長をチェック・記録してくれるのだが、それも無料なのだ。さらに有難いことには、小学校から大学までの教育費も無料なのである。また、無料どころか、子どもがいれば四半期ごとに手当がもらえる。手当は子どもの年齢に合わせて3種類に分かれており、年齢が低いほど高額で、乳児手当は年額で約23万3千円(約17000クローナ)に上る。

今、私は子育てをしながら、デンマークがいかに子育てしやすい国であるかを体感している。医療費・教育費に頭を悩ませることなく、子どもを生み育てることができるのだ。親の経済状況に左右されず、子どもは自分の人生を切り開くための平等な選択肢を手にできるのだ。もちろん、それを支えているのは高い税金であることを忘れてはならないが、夫婦で取得できる育児休暇、父親の育児参加は当たり前という考え方など、デンマークには社会が積極的に子育てをバックアップする雰囲気がある。子育てのバリアを限りなく取り払っているデンマークから「バリアフリー」について学べることは、まだまだ山ほどありそうだ。

針貝有佳/プロフィール
東京・高円寺生まれ。2009年12月からデンマークの首都コペンハーゲンに住み、ウェブや雑誌からさまざまなデンマーク情報を発信している。現在、子育てしながらデンマーク社会の内側を体感中。