8 空港からホテルまでの段差の数=ゼロ/香港           

世界各国のビジネスマンや中国からの観光客で賑わう香港。金融と観光が主要産業で、かつ中国とは事実上独立した政府がこの都市”国家” では、インフラ整備に巨額の資金を投入し、市民生活に必要な設備を次々と建設している。

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世界各国のビジネスマンや中国からの観光客で賑わう香港。金融と観光が主要産業で、かつ中国とは事実上独立した政府がこの都市”国家” では、インフラ整備に巨額の資金を投入し、市民生活に必要な設備を次々と建設している。

そんななか、政府が力を入れているのが、交通機関におけるバリアフリーだ。すべての地下鉄駅は、ホームと地上がエレベーターとエスカレーターでつながっており、駅員や職員への事前連絡なしで車椅子ユーザーがいつでも電車が利用できるようになっている。

この香港における「地下鉄完全バリアフリー」の恩恵を大きく受けているのは、各国からの訪問客かもしれない。おみやげがいっぱい詰まったスーツケースを持って、地下鉄の階段を上り下りするのは至難の技だが、香港ではそういった苦労とは無縁だ。

香港国際空港のバリアフリーのコンセプトは、中部国際空港(セントレア)など世界各地で生かされている=セントレアで撮影

そもそも、空港の出発、到着ロビーと駅、バス乗り場とはそれぞれスロープでつながっており、エスカレーターやエレベーターに乗る必要さえもない。だから香港では、空港からホテルに向かう際(あるいはその逆向き)の段差は「一切なし」と言い切れるのだ。

あるベテラン介護従事者が「重いスーツケースを引いて街を歩くと、健常者でも車椅子ユーザーの苦労が少しは実感できるはず」とコメントしていたのを聞いたことがある。バリアフリーの実践は、必ずしも障がい者だけに対するものではない。あらゆる人々にとってやさしい街づくりを実現するための公共事業への投資を惜しんではならない。私はそう考える。

さかいもとみ/プロフィール
名古屋生まれ、日本の大学で中国語を学習ののち香港に移住。以来、編集者として、中華圏やアジア各地のガイドブックや雑誌企画などを数多く手掛ける。標準中国語(普通話)と広東語のバイリンガルで、現地で通訳やコーディネータなどを引き受けたことがある。著書に『中国人観光客 おもてなしの鉄則』、「アジアのツボ(共著ー絶版)」がある。