第10回 新居お披露目は年越しパーティで 

11月半ばを過ぎると気になりだすのが大晦日の年越しパーティ。今年、2013年はペッカとキャッティスの家で盛りあがったのだが、スウェーデンではクリスマスは家族と、大晦日は友だちと、というのが定番だ。2011年の夏前まで住ん...
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11月半ばを過ぎると気になりだすのが大晦日の年越しパーティ。今年、2013年はペッカとキャッティスの家で盛りあがったのだが、スウェーデンではクリスマスは家族と、大晦日は友だちと、というのが定番だ。2011年の夏前まで住んでいた街中のアパートは居間にベッドルームひとつと手狭だったので「新居に引っ越したらぜひうちでパーティを!」と夫と話してはいたものの「あとひと月ほどで人をよべるほど家の完成度が高まるのか?」不安でもあり言い出しかねていた。そんなわたしたちの背中を押すように、「2012年をティナたちの新しい家でぜひ迎えたい!」という友人たちのリクエストが聞こえてきた。「ならばぜひに!」と夫と快諾。そうと決まれば、あとは仕上げるのみ。締め切り日の決定は、燃え尽きそうだったヤル気を再点火する最良のモティベーションとなったのである。

11月23日、雪の便りも聞こえるころやっと部品がそろい、換気扇を設置。冷蔵庫の食品も今まで料理していたとなりのサマーハウスから本宅へ引越しさせ、はじめてのクッキングはジャガイモのオーブン焼きとステーキにサラダ。IHクッキングヒーターもオーブンも完璧に始動。ふたりでもゆったりと料理できるスペースと、キッチンとダイニングが同じスペースにあることのありがたさをしみじみと感じたディナーだった。

師走に入ってからはこまごました作業が続いた。玄関の洋服と靴の収納を組み立てる。IKEA製品なのでまず材料が全部があるか確認してから手順よく夫と共同作業。さらに、アイランドキッチンの天板とあちこちのランプをとりつけ、電線を引き出した壁の穴をコンセントの差込口やふたなどで覆う。こう書くといかにもスムーズに仕上がったように聞こえるかもしれないけれど、同じふたでも設置場所によって必要なクギの長さが微妙に違うなど、相変わらず各作業のニーズに細かく応対したことは言うまでもない。

スウェーデンではカーテンの目的はどちらかというとデコレーション。日本のように外からの視線や外光をさえぎるためには、ブラインドやロールスクリーンを活用することが多い。いちばん長いころで日の出から日没まで20時間ほどの夏場に備え、寝室にもインテリア用のカーテンと厚手の遮光ロールスクリーンを設置した。

寒さが厳しくなってから駆け込み注文が殺到したのか、12月6日にオーダーした薪ストーブはクリスマスには間に合わず、暮れも押し迫った27日に我が家にやってきた。煙突は火や煙が漏れると火事の原因になるので保険のためにも、新設の場合は使用前に専門家のチェックが必要だ。煙突専門家の点検に合格しストーブ初点火。家の暖房は温水を利用する床暖房とパネルヒーターが主で、薪ストーブは補助的存在だが、薪ならではのぬくもりは他の熱源にはない安らぎだ。このご時勢、薪を燃やせば二酸化炭素が増えるのはわかっているけれど、とくに暗くて長い冬の夜は暖房効果もさることながら、温かい炎のゆらめき、薪の燃える香りやパチパチと木のはぜる音などなどが、わたしたちの心をほんわか暖めてくれるので、ストーブは我が家の必需品のひとつである。

(左)2009年に夫と造った煙突のレンガ部分を削って煙突本管にストーブの金属パイプを接続。(中央)接続部をパテで埋める。(右)ストーブの炎はろうそくの明かりとあわせてこの時期とくに身近にあってほしいもの。

さて、大晦日のパーティ準備は屋内ばかりではない。車で来る人のために駐車スペースを確保する。アパート住まいのころ敷地内の雪かきは管理費でカバーされていたが、ここでは自分たち以外雪の面倒をみてくれる人は誰もいない。雪はたいてい湿雪ではなく乾燥した軽い粉雪で、一晩に1mも積もることはまずない。そうはいっても5cmも積もればプラスチックの雪かき用スコップで必要なスペースの雪を脇に押しやるのに軽く一時間はかかる。10cmを超えれば除雪機の出動だ。除雪も手順を考えてからはじめないと、せっかく雪をどけたところにまた雪を飛ばしてみたりと二度手間だ。除雪初体験のわたしにとって、「やる前にまず考えよう」は雪かきにも大切なご教訓となった。

スウェーデンに移った当初、語学学校で知り合った友人たちはペルー、コスタリカ、スペインとなぜか陽気なラテン系。年越しパーティは持ち寄りディナーで、食事が終わりダンスタイムになるころには、夫秘蔵レシピのウェルカムドリンクも大きなピッチャーにおかわり3杯めに突入し、居間からキッチンへとダンスの渦が広がった。ただでさえノリのいい彼ら、そうなるともう誰も止められない。キッチンの床はとくに支えを補強していないので、ラティーノがステップするたびに微妙にしなる。みんなの笑い声の合間に、「冷蔵庫が飛び跳ねちゃうから、キッチンではダンスしないで!」と夫の悲痛なお願いが聞こえてきた。

2008年にガラクタをかたづけはじめてから苦節4年。花火を見上げつつ迎えた2012年のお正月。リノベーション中、道具を元に戻していないとか、いったいわないとか些細なことで夫とけんかすることもままあった。そんなこんなを含めて作業の様子を知っている友人たちと、マイナス20度でちょっと凍ったシャンパンで乾杯! 「よかったね、おうちの完成おめでとう!」彼らの祝福がこころの奥にしみこんだ。

田中ティナ/プロフィール
エステルスンド在住。ライター、写真撮影、翻訳業。冬はフリースタイルスキー(モーグルなど)のジャッジとして活動。2011年秋、4年ほどかかってリノベーションした古民家に引越した。2012年夏にはテラスを増設。今年のプロジェクトは車庫兼倉庫建築の予定。