第6回 学習障害と言語矯正士

ディスレキシアではないかと疑いを持ったのは息子が7~8歳の時でした。しかし、2歳離れた長男もフランス語が読めるようになるまでには少し時間がかかったため、最初それほど心配はしていませんでした。まず、うちは3か国語環境(日本...
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ディスレキシアではないかと疑いを持ったのは息子が7~8歳の時でした。しかし、2歳離れた長男もフランス語が読めるようになるまでには少し時間がかかったため、最初それほど心配はしていませんでした。まず、うちは3か国語環境(日本語、英語、フランス語)なので少し時間がかかっても仕方がないとは思っていました。幼稚園にいる時も先生から「2か国語環境なので言語が遅いのかも」とよく言われていました。それは確かにそうだったかもしれません。でも次第にそうも言っていられなくなってきました。

フランスには「オルトフォニスト(orthophoniste :言語矯正士)」という資格を持った方が専門家としてあちこちに「診療室」を構えています。ここでは幼稚園から年少の子供たちに言葉の発音矯正や読み書きを専門的に指導しています。オルトフォニストにかかるのは学校の先生の推薦と学校での検査の結果が必要で、その結果学校から推薦されてかかる場合には医療保険が効くのです。1か月にかかる費用は約2~3万円ですが、その全額はセキュリテソシアル(フランスの国民健康保険)によって払い戻しがあります。親にとってはうれしい限りです。

長男も小学校低学年くらいになって読み書きに不安があったため、オルトフォニストを勧められました。長男の場合は6か月ほどかかりましたが、カードやコンピュータを使ってゲーム感覚で言葉を覚えていくため、先生が美人ということもあったのか、クラスが楽しかったこともあり、通い始めるとみるみるうちに読めるようになり、あっという間に「もう来なくてもよいでしょう」とお墨付きをもらいました。そもそもフランス語は読み方がとても規則的な言語で英語よりも簡単に読めてしまいます。一旦そのルールを覚えてしまえば読むのは難しくありません。英語は不規則な読み方が多いために苦労された方も多いのではないでしょうか。私たちは長男がオルトフォニストにかかってからすぐに読めるようになったため、ここに行きさえすれば大丈夫だと高をくくっていました。長男が大好きだった若い女性の同じ先生を選び、さっそく次男も通い始めたのです。

ところが、長男と違い、次男は頑固な性格でした。また、たびたび学校から呼び出しを受けていました。話を聞けば、学校での話をよく聞かないだけでなく、立ち歩きや上の空が多い、ノートはいつも落書きだらけ。このままでは進級は危ういと宣言されてしまったのです。フランスでは小学1年生は小学校入学の準備学年とされ、非常に大切な学年として丁寧に観察されます。この学年でうまくついていけないと判断されたら、1年もう一度同じ学年を繰り返すよう指導されます。つまり落第です。これに反発する親は多く、「うちの子は落第なんかするような子ではない !」と食ってかかる親もいるほどです。うちの場合は、ちょっと読み書きが遅れているから1年待てば追いつけるかもしれない、くらいに構えていました。なかなか覚えがよくないため、オルトフォニストとの相性がよくないのかもしれないと、高い評判を聞いたところに変えたこともありました。

しかし1年経っても、2年目になってもあまり改善は見られず、むしろ聞く態度がよくないから前の日はよく睡眠をとるようになど、「指導」ばかり。ついに1年生は落第が決定し、1年生2回目に入ってもよくなるどころか、授業態度が悪いとたびたび指導を受けるばかりなのでした。一体どうしてこうなのか、まず私たちが疑ったのは「学習障害」ADHD(注意欠陥多動性障害)でした。それともこの子は単に頭が悪く字も読めないというだけなのでしょうか。だんだん不安になってきたのはこの頃です。


マイアット・かおり/プロフィール
フリーランス翻訳、フリーライター。新潟魚沼市出身。フランス・バスク在住。Nokia 携帯、iTunes、Microsoft 関連製品をはじめ、iPhone アプリなどさまざまなソフトウェア製品のローカライズ翻訳を手がける。Tumbler日本語ローカライゼーション公式コンサルタント。フランス語、英語、日本語の3か国語環境という負担がのしかかるかわいそうなふたりの子どもたちといつまで経っても覚えの悪い夫の日本語教育にも苦戦中。