第6回 鎮魂の祈り ‐ いわき伝統芸能”じゃんがら念仏踊り”

 
チンチチンチ チンチチンチ  トントトント トントトント トントトント  ドンド ドン
夏になると、神社や集会所などで“じゃんがら”の練習をしている音が聞こえてくる。
「あぁ、夏だなぁ」
 
甚大な津波の被害があった...
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チンチチンチ チンチチンチ トントトント トントトント トントトント ドンド ドン

夏になると、神社や集会所などで“じゃんがら”の練習をしている音が聞こえてくる。

「あぁ、夏だなぁ」

甚大な津波の被害があったいわき市薄磯地区にあるお寺、修徳院でのじゃんがら奉納。
このお寺には津波の犠牲になったわたしの友人が眠っている。2011年8月撮影

わきの人びとにとって、“じゃんがら”の音は「夏の訪れを告げる音」なのだ。そしてお盆になると、どこからともなく聞こえる太鼓と鉦(かね)の音。山間からはセミの鳴き声もいっしょに聞こえる。

新盆を迎えた家の庭先で奉納されるじゃんがら。一日何十軒とまわり朝から夜まで続く。

近所で“じゃんがら”が聞こえると、「“じゃんがら”が来たー!」と子供たちは家から飛び出す。大人たちは、「なになにさん家の誰々さんが亡ぐなったがらねぇ、見に行ぐべ」「あぁ、んだねぇ」そんな会話をしながら外に出る。そして線香のかおりと“じゃんがら”の音色が入り混じったその空間で、故人を偲ぶのだ。

“じゃんがら”とは、福島県いわき市に江戸時代から伝わる伝統芸能で、“じゃんがら念仏踊り”俗称。いわき市の無形民族文化財に指定されている。浴衣にたすきがけ、はちまき、手甲、足袋、雪駄の格好をした青年団体が、高灯篭がたつ新盆を迎えた家の庭先で、約20分の間、太鼓や鉦を打ち鳴らし念仏を唱えながら”じゃんがら”を奉納する。8月13日~15日の3日間。炎天下の中、一日で20~30軒もまわる。担い手は各地域の青年会や保存会のメンバー。先頭の提灯持ち1名、太鼓打ち3~4名、鉦打ち10名でだいたい構成されている。

一年の間に亡くなった故人を弔うため、遺族を慰めるための供養の念仏踊り。踊りのなかで右回転、左回転とあるのだが、左回転は死者を慰霊、右回転は遺族を慰めるためといわれている。地元では“じゃんがら”は、夏の風物詩としてて親しまれている。また、お盆のほかにも、いわき市各地で行われる夏祭りの行事としても欠かせないものとなっていて、“じゃんがら”を見なければ夏を迎えた感じがしないくらい、市民に根付いているものなのだ。

“じゃんがら”が受け継がれている団体は、現在いわき市内で約100団体。“じゃんがら”はいわき市内だけにとどまらず、福島県の同じ*浜通りの双葉郡広野町・楢葉町・福島第二原子力発電所がある富岡町、そして福島第一原子力発電所がある大熊町にも存在している。

基本形はあっても、それぞれの地域や団体によって鉦の鳴らし方や太鼓のリズム、テンポ、歌の節回し、着物が違い、それぞれに特徴があり、ひとつとして同じものがないので非常におもしろいのだ。また、いわき市の一部の山間部では、横笛を加えるところもある。

震災後、3回目のお盆を迎える。震災で亡くなられた方々に、“じゃんがら”の「鎮魂の祈り」が届きますように。

*福島県は会津・中通り・浜通りと構成されていて、いわき市や広野町などは、太平洋沿岸に面する沿岸地域で「浜通り」とよばれている。

大堀功美子/プロフィール
オーガニックコンシェルジュ/ライター/フォトグラファー/メディアコーディネーター
福島県いわき市小名浜出身、オーストラリア・ゴールドコースト在住。オーガニックコンシェルジュとして五感で愉しめるオーガニックを広めるために、メディアへの出演、新聞や雑誌、ウェブマガジンなどへの寄稿、ワークショップを開催。連載コラムもいくつかある。オーストラリアにあるFuture Therapy Massage&Day Spa専属フォトグラファー。