第1回 図書館+博物館+インフォメーションセンター=?

ニュージーランドに移り暮らして、びっくりしたことのひとつに書籍の値段がある。残念ながら安いからではなく、高いからだ。内容も充実していて体裁もしっかりしたものとなると、相場は、子どもの一般的な絵本やペーパーバックだと1冊1...
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ニュージーランドに移り暮らして、びっくりしたことのひとつに書籍の値段がある。残念ながら安いからではなく、高いからだ。内容も充実していて体裁もしっかりしたものとなると、相場は、子どもの一般的な絵本やペーパーバックだと1冊15~35NZドル(約1,300~3,000円)、大人のペーパーバックに至っては25~50NZドル(約2,100~4,200円)。日本円にしても、結構高いのではないだろうか? ちなみに、2012年のニュージーランドの一世帯当たりの年間所得の平均は4万8,600NZドル(約412万円)。ホイホイと本が買える家庭は限られている。古本も出回ってはいるが、日本のような充実度は望めない。

書店より図書館へ

私は小さい時から本が好きだったし、今もそれは同じ。なので、書店に行って、娘に本をほしいとせがまれると、ついつい買ってやりたくなってしまうが、必ずお財布との相談が必要だ。もちろん、グッと我慢しなくてはならないことも少なくない。

書店の絵本売り場。ソフトカバーが主流なので軽く、持ち運びには便利だが、お値段はなかなかのもの

そこでどうするかというと、図書館へ行く。図書館のメンバーになるのにお金はかからない。私が住む町、ニュープリマスでは、1回の貸し出しで最高40冊の本を借りることができ、もちろん無料だ。ここに来たら、娘は好きなだけ、面白そうだと思った本を借りられる。「この本が借りたい」という目的があって、図書館を訪れることも多々ある。ここで借りて読んで、特に気に入った本は買うようにしている。ニュージーランドの人々の多くは、私たちのように図書館を頻繁に利用している。

どんな子どもにもアピールする楽しい雰囲気

図書館だからといって、単に書棚に本が並んでいるだけではない。特に子どものフロアは「ディスカバー・イット!」と名づけられ、明るい雰囲気だ。カラフルなビーンバッグチェアやクッションが床のそこここにあり、寝そべって本を読むことができたり、親子がゆったりと読み聞かせできるよう大きなソファが置かれている。絵本の書棚は背が低く作られており、小さな子どもでも自分で本探しができるように配慮されている。

ゆっくり、のんびり、大きなクッションに寝転んで。読書はこうでなくっちゃ。

そんなスペースの横には、木製のパズルが種々置かれたテーブルがあり、好きな時に好きなもので遊べるようになっている。特に雨の日にはそこで子どもを遊ばせ、自分は雑誌などをのんびり読むお母さんの姿を見かける。

ティーンエージャーのスペースもある。少し照明が落としてあって、壁には常にミュージック・ビデオが映し出されるスクリーンが。ハリウッドスターなどのポスターが張られ、スポットライトが当たる。大きめのいすやベンチがあり、高校生が数人たむろしていることもある。

「図書館らしからぬ」がいいところ

子どものためのディスカバー・イット! のメインスペースには人工ながら木々が立ち並び、幹にあるボタンを押すと、原生の鳥たちのさえずりを聞くことができる。ニュージーランド固有の動植物や、当地を支える産業などを学べるインタラクティブ形式の情報コーナーがあったり、スクリーン上のゲームや大型のおもちゃがあったりして、遊びながらさまざまなことが学べる工夫が凝らされている。

さらに図書館であるにもかかわらず、書棚と書棚の間には展示物が置かれている。これは子どものフロアも大人のフロアも変わらない。常設の歴史的遺物のほか、数ヵ月交代で在住の移民たちが協力して、自分の出身国ならではのアイテムを持ち寄り、それを展示してあることもある。

先住民マオリの言語で書かれた児童書が置かれた書棚の中央には、ダンスの時に身につける衣装が展示されている

境がなくなっている図書館と博物館だが、それはツーリスト・インフォメーションセンターも含めたこれらの施設を、バラバラではなく一体のものと考え、お互い呼応しながら活動をしていこうというポリシーが掲げられているから。名称もひとつにまとめられている。

図書館内にある展示ケースには、博物館側で行われている特別展を反映したものが展示される。また、お薦め本のコーナーでも、特別展関連の分野の書籍が紹介されている。

ツーリスト・インフォメーションセンターは博物館の入り口にある。当地を訪れた旅行者は、実用的な情報をインフォメーションセンターで得、その足でニュープリマスの歴史、文化、自然史の展示を見てまわり、どんなところかを理解できるようになっている。

縦割りだけでなく、こんな風に横割りの運営方法も交えると、活動にうんと幅が出る。館同士でタッグを組めば、より個性的で奥行きのある企画が実行できる。充実したプログラムやアクティビティを提供する文化施設に、肩ひじ張らずに気軽に立ち寄れる環境は何ものにも変えがたい。

クローディアー真理/プロフィール
フリーランスライター。1998年よりニュージーランド在住。文化、子育て・教育、環境、ビジネスを中心に、執筆活動を行う。小学校の図書室で出合った本がきっかけで、大学時代、考古学を専攻する。そんな縁もあり、図書館と博物館はこの国に来てからもお気に入りの場所。