第2回 期待を込めて訪問したデンマーク。第一印象はイマイチ!

「世界一幸せな国」デンマークについて研究しようと決意して、私が初めてデンマークを訪問したのは、2006年3月だった。だが、社会統計上はパラダイスに見えたデンマークが、決して私が想像していたような夢の国でないことに気がつく...
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「世界一幸せな国」デンマークについて研究しようと決意して、私が初めてデンマークを訪問したのは、2006年3月だった。だが、社会統計上はパラダイスに見えたデンマークが、決して私が想像していたような夢の国でないことに気がつくには、そう時間がかからなかった。

まず、到着したコペンハーゲンの空港で、空港内に宅配サービスがないか聞いたところ、女性のグランドスタッフに怪訝な顔をされて「さあ。知らないわ」と回答された。その後、切符売り場で同じ質問をしたところ「ここは切符売り場だ!」と男性社員に顔を真っ赤にしてブチ切れられた。サービス精神がまったく感じられない接客態度に、大ショックを受けた。何よりも、夢をもってこれから研究しようとしている国に、初っ端からばっさりと期待を裏切られたのが悲しかった……。私は本当にこの国を研究したいのだろうか? 悶々とした旅行の始まりとなった。

円塔(ラウンドタワー)から見えるコペンハーゲンの街。当時もこんな曇り空だった。

初のデンマーク旅行の日数は5日間。デンマークの主要都市であるオールボー、オーフス、オーデンセ、ロスキレ、コペンハーゲンを、それぞれ1日観光で駆け抜けた。まだ寒い時期だったせいか、天気が悪かったせいか、1人旅だったせいか、心許なく寂しかった。また、欲張りすぎてハードスケジュールにしてしまったせいか、どこを訪問しても充足感を得ることができなかった。さらに、当時の物価が高かったこともあり、決して安くない金額を出して宿泊したホテルはとても簡易で狭く、食事もたいして美味しいと思えなかった。観光スポットとはいえないような小さな観光スポットをいくつも訪問しながら、デンマークという国の規模の小ささにも愕然とした。要は、多くのものが、日本に比べて、ショボかった。街の人びとも決して幸せそうには見えなかった。そもそも街に出ても人が少なく、活気がなく、寂しい感じがした。何がどうしてこの国が「世界一幸せな国」なのか!? さっぱりわからなかった。

けれど、初めての旅行の印象がイマイチだったという理由で研究対象国を変更するのもどうかと思った。デンマークという国に対して前向きにもなれなかったが、後戻りもしたくなかった。研究すると決めた国の魅力をなんとか発見して帰国したかった。そんなもやもやした気持ちで街を歩いていたときだった。伝統的な一軒家の2階に灯りが点いているのが見えた。

あの家々の内側を覗いてみたい。観光客として街を歩きながら、そんな思いを抱いた。

これだ。この旅行で私が見ていないのは、一般家庭の家のなかだ。人びとは毎日どんな暮らしをして、何を楽しみに生活しているのだろう? 人びとの素顔や日常生活の様子は、いくら観光地を回っても見えてこない。もしかしたら、この国の魅力は、観光していても見えないのかもしれない。あの屋根の下の灯りのなかに入って初めて見えてくる何かがあるのかもしれない……。いつかデンマークの一般家庭を覗いてみたい。

旅行から帰国して、私はみんなに「面白かった」と報告した。内心は複雑だった。けれど、複雑な気持ちを吐露する気にはなれなかった。デンマークを研究すると決めた以上、本音を言うことが許されない気がしたからだ。また、本音を言ってしまうことで、自分の研究への決意が揺らぐことが怖かった。そして、複雑な気持ちに蓋をしたまま、私のデンマーク研究は始まった。

針貝有佳(はりかいゆか)/プロフィール
デンマーク・コペンハーゲン在住のライター兼トランスレーター。東京・高円寺生まれ。早稲田大学社会科学研究科で「デンマークの労働市場政策」について研究し、修士号取得。現在、デンマーク人の夫と娘と3人暮らし。現地のナマ情報・発見・感動をウェブや雑誌から発信するほか、翻訳やリサーチも手がけている。

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ANAコペンハーゲンガイド