第5回 デンマークが「世界一幸せな国」って本当!?デンマーク人へのインタビュー

「世界一幸せな国」といわれるデンマーク。だが、厳しい移民規制、不安感を抱かせる医療制度、質の低いサービスなどを考えると、決してパーフェクトな国とは言えない。そんなデンマークをデンマーク人はどのように感じているのだろう。実...
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「世界一幸せな国」といわれるデンマーク。だが、厳しい移民規制、不安感を抱かせる医療制度、質の低いサービスなどを考えると、決してパーフェクトな国とは言えない。そんなデンマークをデンマーク人はどのように感じているのだろう。実際にデンマーク人は本当に幸せなのだろうか。そんなことをぼんやりと考えていたとき、タイムリーにも「世界一幸せな国デンマーク」をテーマにした雑誌の特集依頼が飛び込んできた。当時はライターとして駆け出しの頃でもあり、依頼内容がまさに私が追求したかったテーマだったので舞い上がってしまった。なかでもデンマーク人に「幸せの理由」をインタビューするコーナーが要だった。さっそく老若男女さまざまなデンマーク人にインタビューをしたのだが、それが実に面白かった。しかも「幸せ」についてナルホドと思わせてくれる発言が少なくなかった。

私が好きなデンマークの光景の1つ。夏に公園で日差しを楽しむ人びと

たとえば、こんな回答が返ってきた。「『幸せ=心配事があまりない』ということじゃないかな。デンマークでは何かを失っても、それが深刻な問題に発展することが少ない。失業しても十分な失業手当をもらえるし、デンマーク人の心配事なんてささいなことだよ」「デンマーク人は常に選択肢をもっていて自由だと思うの。いざというときには社会がサポートしてくれて、再び自分の足で歩き出せるようになるという安心感がある。何かを失っても新たな選択肢があると思えることは、精神的に健康であるために重要なことだと思うわ」「教育は無料だから、どんな家庭に生まれても、誰もが同じスタート地点に立てる。この国で自分の方向性を見失うのは不可能なくらいだ」「みんなが自分の潜在能力を活かして、したいことを実現しやすい国だと思うわ」「仕事とフリータイムのバランスがとれていることも重要だね。僕らは楽しい時間を過ごすことを大切にするんだ」云々。結局、どうやらデンマーク人は本当に幸せらしい。それが私が受けた全体的な印象だった。

さらに、高い税金についても「社会保障がしっかりしているから、高い税金を払う価値があると感じられる。ある意味、僕らは望んで高い税金を払っているとも言える」「税金を払うことで、私は社会に貢献していると感じられるの」と、私にとっては目から鱗の発言の連続だった。しかも、この発言が上っ面ではなく本音だと感じられるところに凄味があった。デンマーク人にとって、税金とは安心感をもてる社会をつくるための投資であり、社会貢献するための一つの手段のようなのだ。そして、このような税金観のベースにあるのは「信頼」である。国への信頼、他人への信頼……。インタビューをしてみて、高い信頼をベースとした平和な世界観をもっているデンマーク人が正直羨ましくなった。

庭に置かれたベビーカーでは赤ちゃんがお昼寝中

デンマークにしばらく住んでいると、いい意味で「洗脳される」といわれる。他人を信頼する気持ちが高まり、安心感をもってハッピーな目で世界が見えるようになるらしい。もちろん、これは一説に過ぎないし、デンマークにいながら他人への不信感をもっている人も、デンマークを好きになれない人もいる。だが、デンマークに住んで約5年が経過した今、私が以前よりも他人を信頼し、安心感をもって暮らすようになっていることは確かである。そして、そんなふうに自分を変えてくれたデンマークが「世界一幸せな国」であることは、あながち間違いではないような気がしている。デンマークには赤ちゃんをベビーカーに入れて庭で昼寝させる習慣があるが、それはデンマーク人の他人への信頼感の高さを表す一つの象徴のようである。

針貝有佳(はりかいゆか)/プロフィール
デンマークのライター兼トランスレーター。東京・高円寺生まれ。現在、デンマークの首都コペンハーゲンで夫と娘と3人暮らし。早稲田大学第二文学部を卒業後、早稲田大学社会科学研究科で「デンマークの労働市場政策」について研究し、修士号取得。その後、デンマーク人の夫と結婚し、デンマークに移住。現地のナマ情報・発見・感動をウェブや雑誌から発信するほか、翻訳やリサーチも手がけている。

ネットで読める主な記事
北欧、暮らしの道具店HPのデンマーク特集
ラジオ番組 Eco Action World出演
エキサイトのコネタ
地球の歩き方コペンハーゲン特派員ブログ(更新は6月に終了)
SoDaTsu comデンマークの子育て事情
ANAコペンハーゲンガイド
北欧じかん寄稿