第17回 宝石の街の絞首台


「宝石の鉱山」、ミナスジェライス州。その昔、ダイヤモンドや金を求めて、ヨーロッパから多くの白人が押し寄せた場所だ。世界の金全体の85%が掘り出されていたというその時期は、黄金時代と呼ばれ栄えた。そしてそのために、多くの...
LINEで送る

「宝石の鉱山」、ミナスジェライス州。その昔、ダイヤモンドや金を求めて、ヨーロッパから多くの白人が押し寄せた場所だ。世界の金全体の85%が掘り出されていたというその時期は、黄金時代と呼ばれ栄えた。そしてそのために、多くの黒人奴隷がアフリカから連れてこられた土地でもある。掘り出された宝石は「Estrada Real」(王の道)と呼ばれる街道を通り、リオデジャネイロの港からヨーロッパへと渡った。街道沿いには大小の街が連なり、今でもその当時の面影を残している。バロック様式のカトリック教会、石畳の小道、街全体が植民地時代の文化遺産のようだ。

忘れてはならないのはそのすべてが、黒人奴隷の血と汗から生み出されたということだ。そしてキリスト教を強制され、改心するものが多かった中、奴隷のための教会が各地に建てられた。ブラジルで黒人の守護神として知られる、ロザリオの聖母マリアを奉る、ロザリオ教会がそれだ。そしてまた多くの街で、ロザリオ教会とは離れた場所に、奇妙な十字架が掲げられた。ナイフやフォーク、金づちやハシゴが付いている白い十字架だ。これらはイースターのシンボルと呼ばれ、キリストの受難を偲ぶ象徴である。

十字架のある場所はその昔、絞首台があった。売買され、過酷な労働を駆使させられた果てに、その命が奪われた場所である。黄金時代のブラジル経済を支え、そこで人生を終えざるを得なかった奴隷達の受難を、キリストのそれと重ね合わせたのだろう。

王の道沿いのとある宿場町では、街外れにある十字架の周りは小さな広場となっていた。お年寄りは日光浴を楽しみ、子ども達が走り回るのどかな場所だ。しかしその街の高級レストランは白人で占められ、十字架のある低所得層地域には黒人しかいない。負の歴史から抜け出せないでいる、ブラジルの一面を垣間見たような気がした。

≪高橋直子(たかはしなおこ)/プロフィール≫
ブラジ ル在住10年目のフォトグラファー&ライター。若い情熱に惑わされてブラジルにはまり、まいた種が芽を出してはや7年。わんぱくに成長したわが子に、 読み聞かせ絵本のポルトガル語を直される毎日。ビールを片手に夜の街に出没し、サンバのステップに足を絡ませる日々を過ごす。ブラジルをあそぶブログ