第12回 洗濯紐に吊るされたブラジル文学

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洗濯紐に吊るされたブラジル文学

コルデルとは「紐の文学(Literatura de Cordel)」のことで、ブラジル東北部の屋台や新聞売り店などで、洗濯紐にぶら下げられて売られている小冊子だ。

その昔ポルトガルで、口伝承だった詩や物語が安いシンプルな紙に印刷されたのが始まり。植民地政策と共に海を渡り、ブラジル東北部で人気を獲得した。内容は伝説や口承文学、架空の物語、有名人の話など時事ネタ、アダルト系から社会風刺まで。歴代最も人気があったのは義賊の英雄ランピアンと、自殺したジェトゥリオ・ヴァルガス元大統領のネタだとか。昨年のブラジルの日本人移民100周年、そしてマイケル・ジャクソンの訃報の話題など、最近は内容もインターナショナル化した。

東北部では一般的な、コルデル一色の新聞売り店をリオデジャネイロで見かけた。よその土地でよく見る光景を、他の土地で見るとなぜだかうれしくなる。生まれ育った土地を離れ、別の大地に居住するコルデルに、母国から離れ地球の反対側に暮らす私自身を重ね合わせているからなのかもしれない。

ピンク、緑、黄色と華やかなコルデルの表紙は、東北部特有の版画で飾られている。見ているだけでかわいい版画に、手のひらサイズの小冊子は一冊250円ぐらいから。来年はブラジル大統領選。ユーモアと皮肉たっぷりのコルデルを、大統領を選ぶ材料にするのはどうだろうか。

≪高橋直子(たかはしなおこ)/プロフィール≫
ブラジル在住9年目のフォトグラファー&ライター。若い情熱に惑わされてブラジルにはまり、まいた種が芽を出してはや6年。わんぱくに成長したわが子に、 読み聞かせ絵本のポルトガル語を直される毎日。ビールを片手に夜の街に出没し、サンバのステップに足を絡ませる日々を過ごす。ブラジルをあそぶブログ