サンフランシスコに住んで一番恩恵を受けていると感じるのは、オーガニック環境に恵まれ、美味しい食材や料理にありつけること。そんなオーガニックな食文化を紹介したくて去年、「カリフォルニア・オーガニックトリップ」というガイド本を出版した。その時、取材で訪ねたソノマ、ペタルマ地方の有機農家の人たちやシェフから「サステイナブル」な生き方の重要性を学んだ。この大事なテーマをもっと多くの人に伝えたいと思っていたところ、シリコンバレーのビジネスコンサルタントから講義の依頼を受けた。それ以来、「サステイナビリティ」のトークがヒートアップしている。
そもそも「サステイナビリティ」とは何なのか。辞書には、「持続可能な」と記載されていて分かりにくい。私の理解では、この地球を温存させるため、生態系を守りながら自然と人間が共存する暮らし術。つまり農林水産業で言えば、有機農法、漁業は海を汚さず乱獲をしない昔からの手法であり、産物そのものだけでなく、農業に関わる大地に生息する微生物や虫、鳥などの、生態系維持に努め、生産者や近隣者の健康も考慮した生産法とライフスタイル(消費者の生活習慣)を含めたものと捉えている。
「サステイナビリティ」を語る中で、一番聴講者の興味を引くのは、「食べてはいけないもの」の説明だ。「では、いったい何を食べれば良いの?」という質問が殺到する。答えは簡単‐‐「地産地消」である。生産者とコミュニケーションが図れる範囲で収穫された作物を食すのが理想。実はこの思想が「サステイナビリティ」に繋がっている。
「食べてはいけない」の項目の一つに、低価格の輸入牛肉がある。統計で見ると、世界で年間推定2億頭の牛が食肉となり、世界70億人の食欲を満たしている。しかし牛一頭が食肉になるまでの大量の水と餌、人間活動と牛から排出される大量の温暖化効果ガスが気候変動に大きな影響を与えている。そして家畜の大半が遺伝子組換えの安いトウモロコシと穀物の餌が与えられ、ホルモン注射で急速に大きくされ食肉となり世界に流通される。行き着く先はファミレス、ファーストフード、スーパーになるが、それを口にする人は、表示が無い限り、その肉がどの国のどの牧場で育ち、どの業者が加工しているかなど知るよしもない。
パックされたり調理された肉そのものより、どういうプロセスで食肉になったかがポイントになる。したがって、生産元が不明な肉、調理されている安い肉は危険な食べ物と説明している。肉を含め青果でも地方から、あるいは海外から飛行機や船で輸送される食材は日持ちするための保存剤や色艶よく見せる為の薬品を使用するケースが多く、栄養価もすでに低下している。そしてその食材の輸送時に発生する環境汚染を考えれば、地産地消が良いという事になる。
サステイナブルなライフスタイルは食材選びから始まる。アメリカだとオーガニック食材を扱ったスーパーやファーマーズマーケットで買うのが良いが、日本だと、工場生産ではなくキッチンで作られた商品を選ぶ。大手スーパーより商店街の八百屋さん、コンビニより、キッチンがある小さなデリが良い。「地産地消」を意識することで、本物の食べ物の味がわかるようになり、健康増進が図れ、生産者、地域に還元できる。この第一歩が「サステイナブルなライフ」への入り口で、世界を変える扉だと考えている。
※次回はカリフォルニア、ペタルマ地方の究極の地産地消文化を紹介します。
参考文献:食料産業新聞社・USDA( 米国農務省)「World Markets and Trade」
《関根絵里(せきねえり)/プロフィール》
ライター/ コーディネーター
福岡県出身、関西育ち。1996年サンタバーバラに移住。1999年に大学卒業後、サンフランシスコでタウン雑誌の支局長を勤める。2004年よりフリーランスになる。現在、フード、トラベル、ライフスタイルの記事を中心に各雑誌にコラムを執筆中。サンフランシスコ在住。
2014年の主な仕事: 記事:「ELLE a Table」「PEN」 西海岸特集、「ミセス」(ワールド)「Japanese Restaurant News」「ボディープラス」コーディネート:「地球の歩き方」サンフランシスコ/シリコンバレー版、「まっぷる」西海岸版、「タビトモ」サンフランシスコ
著書:『カリフォルニア. オーガニックトリップ』(ダイヤモンド社)(2014)