第2回 キャラバン購入、そして出発!

ハウスシッティングに応募した後、数人のオーナーから返信をもらった私たちは、まるで就職の一次試験を通過したかのように狂喜乱舞した。そして、いよいよ一組のオーナー夫妻とスカイプ(ネットを使ったテレビ電話)で面接をすることに。...
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ハウスシッティングに応募した後、数人のオーナーから返信をもらった私たちは、まるで就職の一次試験を通過したかのように狂喜乱舞した。そして、いよいよ一組のオーナー夫妻とスカイプ(ネットを使ったテレビ電話)で面接をすることに。何を着ようか、と可愛いことまで気にしていたわりには、初めてのスカイプ面接はリラックスムードで終了し、その場であっさりとOKの返事をもらった。こんな調子で、私たちは他に4軒ほどのハウスシッティングの約束を、タイ滞在中に取り付けたのだ。オーナーたちは全員、数ヶ月先に出かける海外旅行中の家とペットの世話を、見ず知らずの私たちに託すことになる。もちろん詳細なプロフィールや推薦書など、ちょっとした就職活動のような準備はしたのだが、それでもこんなに簡単に、実際に会わずして他人に大切な家やペットを預けるオージーたちの気軽さに、改めて驚いた。

出発直前。走る時には上部をたたんでコンパクトに。

その後、西オーストラリアに戻った私たちは、旅の計画を練り始めた。東へ向かうには、飛行機、車、車も一緒に運べる大陸横断鉄道、という三つの方法が考えられたのだが、楽器と犬も一緒に行くことを考え、車を選んだ。そして、タイミング良くほぼ新品の小さなキャラバン(オーストラリアではキャンピング・トレーラーのことをキャラバンと呼ぶ)を売っている人を見つけ、早速購入。私は生まれて初めての「動く我が家」に大興奮。キャラバンにはベッドの他に、小さな冷凍・冷蔵庫、電子レンジ、グリル、ガスと電気両方のコンロ、換気扇、シンク、ベンチとテーブル、そして電源まで揃っているのだ。以前、ベッドだけのバンのようなもので旅したことはあるが、それとは雲泥の差である。満天の星を見ながら眠る夜と、いつでもどこでも料理できる快適な旅を空想しつつ、ワクワクしながら出発の日まで準備にあけくれた。

モデルは違うが、私たちのキャラバン内部も大体こんな感じ
(画像はメーカー・Jaycoのウェブサイトよりお借りしました)

いよいよ旅立ちの日。その半年前から家を貸し、既に海外へ旅に出ていた私たちは、誰にも見送られることなく、ひっそりと二人+一匹で出発。途中の店でまずカーナビを購入し、東へと向かう。夕方の出発だったため、一日目は大して走れず、パースから少し離れた国道沿いの休憩所のようなところへ。といっても、日本の大きな設備の整ったサービスエリアとは全く違い、トイレと洗面所があるだけの小さな暗い場所だ。周りは木々に囲まれ鬱蒼としている。キャラバンにキッチンがあることに感謝しつつ歯磨きをし、星空の下、初めての夜をキャラバンで明かした。

標識「ラクダ、ウォンバット、カンガルーに注意」

西から東へオーストラリア大陸を横断すると、およそ5000キロほどの距離になる。私たちは平均で一日に600キロほど走り、十日足らずで東に着く計算だった。ただの車の運転であればもちろん交代で運転するのだが、それまでキャラバンを牽引したことのない私は、全く運転をさせてもらえない。オーストラリアの田舎では、野生のカンガルーやエミュ(ダチョウのような大きな鳥)、時には野生化したラクダまでが、突然車の前に飛び出して大事故になることもあるので、重量のあるキャラバンつきの運転には、尚更のこと慣れが必要なのだそうだ。当然、他にやることのない私は景色を見ながら、ひたすら「話す、食べる、歌う、寝る」を繰り返すことになる。(愛犬ロカも時に一緒に歌っていた)

そして、事件は早くも二日目に起きた。その日の夕方、パートナーが思いっきり熟睡していた私を突然起こし、「トイレ我慢できないから、ガソリン入れておいて」と言い残し走り去った。寝ぼけた頭で、やっと田舎町の小さなガソリンスタンドにいることが分かった私は、ゆっくりとガソリンタンクを開け車の外に出た。そこには、ガソリンを入れるノズルがたった一つ。何の疑いもせずそのノズルを差し込んだが、タンクの穴にきちんと入らない。「まあ、田舎だからノズルの形が違うんだろう」と特に気にもせず、そのまま給油し続けた。そして、だんだんクリアになってきた目でふとラベルを見ると、小さなステッカーに更に小さな文字で「Diesel(ディーゼル)」と書いてある! そこで一気に目が覚めた。ディーゼルオイル(つまり軽油)を普通車に20リットルも給油してしまったのだ。戻ってきたパートナーに恐る恐る告げると、「何ぃーーっ!?」と言って恐ろしい顔になってしまった。ガソリン車にディーゼルオイルを入れると、大事に至るらしいのだ……。

香川千穂(かがわちほ)/プロフィール
朝日放送アナウンサー退職後、二年間のハワイ島生活を経て2006年よりオーストラリア在住。執筆のほかにサウンド&アートセラピストとしても活動し、珍しいクォーツ・クリスタルの楽器「アルモニカ」によるサウンド瞑想コンサートを各地で行っている。最近は、趣味と実益を兼ねたダ・ヴィンチNEWS のレビューの仕事をエンジョイ中。