第6回 リオデジャネイロの美しい夜

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リオデジャネイロの美しい夜

夜のリオデジャネイロは2種類の光で輝く。家庭で多く使用される電灯の白い色と、州政府が設置した黄色い街灯の色だ。

夜の街を眺めていると、黄色い光が覆うように小高い丘に集中しているのが分かる。「なんてきれいなの」とつぶやいた私に友人がいった。「暗がりで遠くから見れば何でもきれいなのかも知れない」

オデジャネイロの小高い丘のほとんどが、ファベーラと呼ばれるスラム街だ。経済的貧困からくる暴力、犯罪、無教育がはびこり、警察が人を殺しても新聞に載らない舞台である。貧しいブラジル東北部から都市に働きにくる人々が、住処を求めいつく土地であり、ブラジル全体の問題を象徴する場所でもある。レンガや木で作られた家々がマッチ箱のように丘に積み重なり、違法に引いた電線が頭のすぐ上を走る。

近年になって州政府は、違法占拠地であるファベーラを住宅地区とみとめ、街灯の設置や道路の整備に力を入れている。選挙目的だとの批判は多いが、それでも住民の生活環境を整えていくのは政府の義務だと思う。

都市ガスが通っていないため、大きなガスボンベを抱えて丘を上る住民。共同洗濯場で泥が混じった水で服を洗う女たち。はだしでサッカーボールを追いかけ、銃弾が壁に埋め込まれた学校に通う子ども達。光を見ているだけでは、そんな汗臭いにおいは漂ってこない。しかし、キラキラと輝く黄色い光を美しいと感じるのは、私だけではないはずだ。

光があるところに生活がある。人々の苦しみと哀しみ、喜びが入り混じり、夜になって輝く光でその存在を主張する。私はその美しさを無視できず、その光の影に潜む暗闇に眼をつぶれないでいる。

≪高橋直子(たかはしなおこ)/プロフィール≫
ブラジル在住8年目のフォトグラファー&ライター。若い情熱に惑わされてブラジルにはまり、まいた種は芽を出してはや5年。読み聞かせ絵本のポルトガル語を、息子に直される毎日。ビールを片手に楽しむ議論はタブーなし。討論好きのブラジル人に混じってスピーチ力、高めてます。ブログ、 「VIVAカリオカ!」