209号/田中ティナ

今年の夏は寒かった。
ところが、お盆がすぎ、涼風に秋の気配が感じられるころなって、ようやく気温は連日20度を越える夏の天気。

「アパートの部屋で缶を開けることなかれ」、と暗黙の了解があるスールストローミングのプレミア、...
LINEで送る

今年の夏は寒かった。

ところが、お盆がすぎ、涼風に秋の気配が感じられるころなって、ようやく気温は連日20度を越える夏の天気。

「アパートの部屋で缶を開けることなかれ」、と暗黙の了解があるスールストローミングのプレミア、第3週の木曜日も風もなく穏やかな天気で、友人とテラスで悪臭(?!)世界一ともいわれる一品を満喫した。スールストローミングは生のニシンを塩水と密封し醗酵させた缶詰で、最低半年、人によっては1年以上熟成させてからいただく珍味。

独特の風味があるので、愛好者は生産会社が集まる北部地方に多く、南部ではあまり好まれていない、とも聞く。今わたしたちが住んでいる夫の生まれ故郷の街でも、スーパーマーケットで通年、数種類販売しているほどなじみはあるが、もちろん万人の好物というわけではない。現に夫は、相伴はするが決しておかわりしないのだから、ひとの好みはさまざまだ。

今月掲載の片岡さんの「アラビア語ではエビはガンバリ、イカはカラマリという」を読んで連想した。

スウェーデンでは、イカは「ブレックフィスク」という。それではタコは? と調べたらこれまた「ブレックフィスク」と載っていた。日本ならイカやタコも種類によってそれぞれ名前があるのに、こちらではイカもタコも同じ単語。マーケットの鮮魚コーナーで、ごくたまに生のそれらを目撃するけれど、日本ほどの人気はない。

食べる習慣がなければ、区別する必要もないし、ましてや単語もいらないのか、と大げさに言えば生活習慣がもたらす文化の違いに思いをはせていると夫が、「みんなが同じもの好きだったらタイヘンでしょ。ボクが食べない分、キミが楽しめるじゃない」。まさにそのとおり。「たまにはいいこと言うな、夫」、と感心した次第。

(スウェーデン、エステルスンド在住/田中ティナ)