第3回 日本人だから、ボランティア コミュニティ編

周囲に点在する町をあわせると、私が住むニュープリマスの人口は7万人程度。これぐらいの規模は移民にとって、ニュージーランドらしい暮らし方をするのにはぴったりなのではないかと思う。都市部にはありがちな、自国出身者だけでかたま...
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図書館で行われた日本文化の展示の一部。
在住日本人たちがお宝(?)を出し合い、協力した

周囲に点在する町をあわせると、私が住むニュープリマスの人口は7万人程度。これぐらいの規模は移民にとって、ニュージーランドらしい暮らし方をするのにはぴったりなのではないかと思う。都市部にはありがちな、自国出身者だけでかたまったり、それゆえニュージーランド人からバッシングを受けたりということがない。祖国でのやり方を貫き通すのではなく、新しく住むこの国の流儀とうまくバランスをとっての生活が自然だし、地元の人も、そんな移民を鷹揚に受け入れてくれる。

日本車マニュアルの解読者

日本人がニュージーランドを訪れて驚くのが、町を走る日本製中古車の数の多さ。日本車の性能を買っている上、日本人は乗り方も丁寧なので、中古であってもこちらでは手堅い人気なのだ。ただひとつ困るのはカーマニュアルが日本語だということ。マニュアルが付いてくるのはまだいい方で、付いてこなくて困ったという人も多くいる。そんな時にお呼びがかかるのが、在住日本人というわけだ。

時には、「友達の友達は皆友達だ」式に、知り合いではない人からも声がかかる。それでも困っているのだし、こちらは手をそうかけずに助けてあげられるので、馳せ参じる。その人が知りたいことをカーマニュアルから探し出してあげたり、カーナビのスクリーン上に出てくる日本語を訳してあげたりする。お礼にとチョコレートの小箱などをいただくこともあるが、そうでなく、「ありがとう。助かったわ」と言葉だけのことも多い。それはそれでいいと思う。私もどこかで誰かの手を借りているのだから。

常に人気がある日本文化

ニュープリマスは日本の三島市と姉妹都市関係にある。そんな公式なつながりだけでなく、周囲の地元の人の多くが個人的に日本とつながっているのには驚かされる。甥っ子が北海道で英語の先生をしている、姪っ子のフィアンセは日本人だ、姉は日本に嫁いで大学教授をしている、などなど。草の根で日本との交流が進んでいて、興味を持ってもらえることを見越しているのか、市から日本文化紹介をしてほしいと声がかかることが少なくない。

そうした際に絶対に欠かせないアクティビティが折り紙。イベントの度に足を運んでくれる人もいるので、簡単なものから難しいものまで、飽きないように毎回違う折り方を用意する。習字も人気で、言ってもらった名前を私たちがカタカナ書きしてあげる時あり、カタカナでの書き方を教えてあげて、本人が筆をとる時ありと、バリエーションをつける。

アクティビティに必要な材料が手に入らない時は、身の回りのもので工夫したり、日本人コミュニティに呼びかけて数をそろえたりする。ボランティアといえども、チームワークも良く、各人真剣に取り組み、できるだけ本物に近い体験をしてもらおうと努める。おまけに期限を守る。よく声をかけてもらうのは、日本文化自体が好かれているだけでなく、在住者の日本人気質が主催者側に評価されているからだと、私は密かに分析している。とはいっても、私たちは別に主催者に気に入られようと思ってやっているわけではない。あくまで、地元の人々の喜ぶ姿があればこそ、のボランティア活動。理由はその一言に尽きる。

日本文化紹介イベントでは、定番の折り紙や習字以外にも、浴衣を着てもらっての写真撮影、福笑い、お箸を使ってのゲーム、紙芝居などをやり、盛り上がった

ボランティアを通して、草の根交流

日本人は地元コミュニティに貢献しているだけではない。地元コミュニティから助けを得ることもある。それは、東北地方太平洋沖地震が起こった時だ。ニュープリマス在住の日本人たちは大地震のことを知り、じっとしていられず、総出で募金活動を行った。

南島のカンタベリー地方も2010、2011年と2回大きな地震に見舞われている。2回目の地震の記憶がまだ鮮明なうちに起こった東北地方の地震。ニュージーランドの人々は他人事とは思えなかったに違いない。そして、少なからずあるだろう、自分と日本のつながりを思い返してくれたのではないかと思う。皆、惜しみなく寄付をし、募金を呼びかけている私たちに、温かい言葉をかけてくれた。

ニュージーランド人と日本人、草の根で「持ちつ持たれつ」の関係を築いている。これがこれからもずっと続くといいなと思う。

東北地方太平洋沖地震のための2回目の募金活動。英訳を添えた、被害を伝える日本の新聞記事を掲示したほか、各種アクティビティも行い、寄付を募った

クローディアー真理/プロフィール
フリーランスライター。1998年よりニュージーランド在住。文化、子育て・教育、環境、ビジネスを中心に、執筆活動を行う。国内では、ヨーロッパ系が最もボランティア活動に携わり、次いでマオリ系、南太平洋諸国系と続き、アジア系はまだまだといったところ。これからも頑張ります!