220号/河野友見

梅雨が明け、今年も日本に暑い夏がやってきた。ミンミンと気忙しく鳴くセミたちの声を聞くと、広島市民なら誰もが「今年もあの日が巡ってくる」と感じる。

71年前、一発の爆弾によって街が焼け尽くされ、その年の暮れまでに約14万...
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梅雨が明け、今年も日本に暑い夏がやってきた。ミンミンと気忙しく鳴くセミたちの声を聞くと、広島市民なら誰もが「今年もあの日が巡ってくる」と感じる。

71年前、一発の爆弾によって街が焼け尽くされ、その年の暮れまでに約14万人が亡くなった。大昔の出来事のようだが、広島市民、こと被爆者にとってはそんなに昔のことではない。むしろ、現在も後遺症によるガンや白血病と闘っている人にとっては、今なお続いていることだ。

願ってはいたことだったけれど、この広島に、よもや現職のアメリカ大統領が来るなどとは夢にも思わなかった。5月27日は、偶然だが私と主人との結婚記念日。まさにその日、オバマ大統領がこの街を訪れ、慰霊碑に献花して素晴らしいスピーチをしてくれた。被爆者との対面、握手、抱擁。本当に歴史的な日になったと思う。しかし、これが終わりではない。やっと核廃絶に向けた取り組みを世界中が考えるべき時がきた、スタート地点にきた、という日だったのではないだろうか。

核兵器の廃絶は、正直とても難しいことに違いない。すべての国が核を捨て去るなんて、夢物語かもしれない。でも私たちはそれを目標に前進しなければならない。それが現代に生きる私たちに残された使命であり、原爆によって散っていった広島・長崎の人たちの願いでもあると思う。

平和な街に暮らす3歳の息子は、71年前にこの街に起きた悲劇的な出来事をまだ知らない。自分が被爆者四世であることもまだ知らない。子どもたちに平和な未来を託せるかどうかは、私たちにかかっている。

いま、被爆者や市民と同じ思いを持って、オバマ大統領は同じ方を向いてくれている。それを市民は目の当たりにして感じることができた。それだけでも、本当に心強い。

今年も間もなく、8月6日がやってくる。

(日本・広島在住 河野友見)