第7回(最終回)ポーランドで習う世界のJUDO

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これまで学校生活についてあれこれ書いてきたが、最後に放課後の習い事に触れて、本エッセイの締めくくりとしたい。

日本では私が小学生の頃には既に、放課後、塾や習い事に通う友達が多かった。私自身、書道、音楽教室(後にピアノのレッスン)、絵画教室、スイミングスクールといった習い事をしていた。書道は母が家で教室を開いていたため、母から教わっていたのだが、こうして挙げてみると、随分多岐にわたって習わせてもらったものだと驚いてしまう。

一方、ポーランドでそうした習い事が目立つようになったのはここ数年のこと。国際化の影響で英会話を習わせる親が増えているというのはどこの国でも同じなのだろうが、子どもの運動不足を心配した親が何らかのスポーツをやらせることも多い。サッカーや水泳、バレエの人気が高いが、武道がポピュラーなポーランドでは、空手や合気道に通う子もたくさんいる。

“柔道アカデミー”は近隣の町にも支部を持ち、道場もあちこちに散らばっている。その会員を一堂に会した試合が年に4回開催される。試合中に娘の雄姿をパチリ

娘には体を動かすことが好きな子に育って欲しいと思っていた私たちは、幼稚園に入ったら何かスポーツの習い事をさせようと考えていた。それならば日本らしいことを知って欲しいと選んだのが柔道。他の武道に比べて柔道を習えるところは思ったより少なかったが、評判の良い“柔道アカデミー(Akademia judo)”というところに行かせてみたのが、幼稚園の年長になる9月のことだった。ポーランドの子どもたちの中に入ると、同年代の子よりも小柄な娘。そのとき6歳になったばかりの娘が初めて練習に来たのを見た先生からは、こんなに小さい女の子が大きい男の子たちに混じって大丈夫なのか、幼稚園児のグループに入ったほうがいいのではないか、とまで言われてしまったが、そんな先生の心配をよそに、楽しそうに1時間の練習を終え、以来ずっとそこで柔道を続けている。ある時、今もお世話になっているそのクラブの先生が実は、現在学校で柔道を教えてくださっている先生のお弟子さんだと知った。世間は狭い!

“柔道アカデミー”での稽古の様子。娘のグループは男の子が多いが、女の子も少数精鋭で頑張っている

日本滞在中ももちろん柔道教室に通っていた。これまで練習してきたことを忘れて欲しくなかったというのもあるが、何より柔道の生まれた国で稽古できるというまたとないチャンスを生かしたかった。電車を乗り継いで1時間ほどの距離にあったその柔道教室で稽古していたのは男の子ばかりで10人くらい。案の定ポーランドの時と同じように、初日には年配の先生に、ついていけるのか心配されてしまったが、娘のやる気を見て、最後まで丁寧に指導して頂いた。短い間で残念だったが、大変感謝している。

日本の稽古の様子を私達から知ったポーランドの先生は、その後日本式のやり方も取り入れるようになった。今までなかった打ち込みや技の掛け合いの練習が組み込まれたのだ。小さな娘は思わぬところで柔道の国際交流に貢献したことになる。

娘の通う柔術キッズクラスの練習。偶然にも柔道の稽古場所と同じ場所で行われている。男の子たちに混じって練習するのは慣れたもの

さて、第5回に続いて柔道のことばかり書き連ねてきたが、ブラジリアン柔術も習っている。ブラジリアン柔術というのは元が同じなので柔道と似ているが、寝技が中心。学生時代に柔道初段を取ったという夫は以前からブラジリアン柔術をやりたいと思っていたそうで、幼馴染が近所で教えているというのを聞きつけ、始めたのが3年前のこと。「子は親の背中を見て育つ」とはよく言ったもので、それを見ていた娘が興味を示したというわけだ。娘のゴッドファーザーでもあるその幼馴染と、夫からも少しずつ教えてもらい、日本ではクラブのキッズクラスに入ってみることにした。メンバーの中には女の子もいたのが嬉しかったようで、柔道に加えてこちらのほうにも元気に通っていた。ポーランド帰国後は自分からキッズクラスがあれば行ってみたいと言い出し、夫の幼馴染に勧められたところで毎週汗を流している。

柔道も柔術もクラブが休みに入ってしまった今年の夏休み。柔術を最初に教えてくれた娘のゴッドファーザーで夫の幼馴染のアンジェイには、週一回トレーニングを見てもらっていた

長いようで短かった日本滞在から帰ってきたのがもう半年も前のことになってしまった。娘は今でも時々日本の学校のことを思い出しては、いつまたあの学校のお友達に会えるかなとつぶやいている。言葉がうまく通じないもどかしさや、娘なりにいろいろな悩みがあったのだろうが、今になってみると楽しい思い出として残っているようなので、親としてはそれが嬉しい。そして、日本も自分の故郷の一つとして認識するようになってくれたのも収穫だった。また学校に通えるほど長く日本に滞在することがあるかは分からないが、いつかそのような可能性がめぐってくるときのために、国語(日本語)の勉強は続けていってもらいたいし、自分のもう一つのルーツをいつも忘れずにいて欲しい。

スプリスガルト友美/プロフィール
ポーランド在住ライター。ポーランドの新年度はどことなく寂しい。桜が咲き乱れ、次第に暖かくなる季節に新年度が始まる日本とはまるで違い、木々の葉が散り始め、曇りがちでどんどん寒くなっていくのだから。1年前のこの季節を暖かい関東で過ごしていたためか、今年の秋は一段と寒く感じられる。その一方、今私の住む町で、5年に1度のヴィエニャフスキ国際ヴァイオリンコンクールが開催されているため、世界各国から若手バイオリニストが集まり、華やかで熱気も感じられる。5年前は日本の小林美樹さんが見事に第2位に入賞されたが、今年はどうなるだろう。

これまで読んでくださった皆様、ありがとうございました!

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