第5回 たくさんの人情厚い人々に支えられて

最近、「おや」と目にとまったニュースがあった。国内でも指折りのギャンググループがファンドレイジングをするという。「集めたお金を何に使うんだろう?」と怪しみながら読み進めると、社会的に不利な立場にいる人に希望を与え、人生を...
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最近、「おや」と目にとまったニュースがあった。国内でも指折りのギャンググループがファンドレイジングをするという。「集めたお金を何に使うんだろう?」と怪しみながら読み進めると、社会的に不利な立場にいる人に希望を与え、人生を好転させられるよう支援するNPO団体に寄付するのだという。グループのメンバーの多くが厳しい過去を背負うだけあり、サポートの必要性をよく理解しているのだろう。犯罪やドラッグに関わる一面を持つ彼らにさえ、他者のために寄付金集めをしようという気持ちがあるのだな、と感心した。

街角募金に協力してくれる人はどんな人?

募金活動でスーパーマーケット前などに立っていると、いろいろな人が通り過ぎる。どんな人が献金してくれるかしらと思って見ていると、お金持ち風の人だからといって、協力してくれるとは限らないのに気づく。むしろあまり風采のあがらない、どう考えても金銭的にゆとりがあるようには見えない人の方がかえって好意的で、募金用のバケツにお金を入れてくれる。もちろんゆとりがある人は、銀行振込で大金を慈善団体に寄付しているのかもしれないが。

お金を協力する側ではなく、お金を集める側の人の話になるが、以前住んでいた大都市でもよく似た光景を目にしたことがある。国内ではよく知られる慈善団体のための街角募金でのことだった。驚いたことに、募金を呼びかけている人自身が、身なりなどから困窮者であることが歴然としていたのだ。れっきとした活動のボランティアの身分証を身につけ、活動に勤しむ姿には誇りが感じられた。

自分がそう恵まれていなくても、もっと困っている人がいるなら、と善意の心を差し伸べるニュージーランド人の寛大さには恐れ入る。むしろそういう人だからこそ、同じような境遇の人の痛みがわかり、助けたいと思うのかもしれない。

がん患者を支援するキャンサー・ソサエティ・オブ・ニュージーランドが毎年8月に行っているファンドレイジング、「ダッフォディル・デー」。こんな小さな子どもに寄付を呼びかけられたら、「No」と言える人はいまい © The Cancer Society of New Zealand

調査結果でも証明された、情の厚さ

日々暮らしてみると十二分に感じることができる、ニュージーランド人の気前のよさ。こんな風なのは、私の周囲だけのことなのか、国全体のことなのか。ファンドレイジングを行う個人や企業をサポートする、英国の組織、チャリティーズ・エイド・ファウンデーション(CAF)が毎年発表している報告書に「ワールド・ギビング・インデックス」がある。「見知らぬ人への手助け」「お金の寄付」「ボランティア」の3項目を過去1ヵ月間に行ったかどうかを調査、総合的に評価し、指数を出したものだ。

2016年度版では、ニュージーランドは、140ヵ国中、ミャンマー、米国に続き、世界で3番目に思いやりのある国であるという結果が出た。これは過去5年間変わっていない。見知らぬ人への手助けの面では第31位とふるわなかったものの、ボランティアに関しては第6位。お金の寄付に関しては、71パーセントの人が実行しており、第5位にランキングされていた。

また、GDPに占める慈善団体への寄付金額を分析した、CAFによる2016年度の「グロス・ドメスティック・フィランソロピー・レポート」によれば、世界24ヵ国中、ニュージーランドは米国に続き、第2位。GDPの約0.8パーセントを寄付しており、その額は約1兆200億円に上った。

南太平洋の端にあるちっぽけな国ながら、この国の人々の寛大さは世界でも十指に入っている。私が日常的に実感している人々の優しさは、世界的な報告書で裏打ちされていたのだった。

ひとりでは微力でも、皆で協力して人助け

私が知る限り、ファンドレイジングが大きく失敗した話は聞かない。人々が他者を思いやる、温かい心の持ち主であるからこそなのだが、さらに寄付に対し、あくまで「ちりも積もれば山となる」的な考え方があるからなのではないかと思う。寄付者に、「大金を寄付してくれたら助かるけれど、もし無理だったら、少しでいいから協力してくれないかな」というアプローチをとるのが大前提なのだ。人間、感謝されることは気持ちよく感じるもの。数枚のコインでも、ありがたく受け取り、役立ててもらえるのなら、協力したくなるのが人情ではないか。

毎週のように、どこかしらの団体が主催となり、何らかの理由で募金活動が行われているニュージーランド。そして援助を惜しまないニュージーランド人は、ほんの数ドルでも今週はこの団体へ、また次の週はあの団体へとちょこちょこ寄付をする。自分ができる範囲で、できるだけたくさんの人と共に、できるだけ多くの笑顔が生まれるように――こんな風にして、ニュージーランドは世界で3番目に寛大な国になっている。

クローディアー真理/プロフィール
フリーランスライター。1998年よりニュージーランド在住。雑誌、ウェブサイトを中心に、文化、子育て・教育、環境、ビジネスといった分野で執筆活動を行う。