225号/田中ティナ

難民の受け入れに積極的なスウェーデン。わたしの住むエリアにあるスキー場のホテルも難民収容施設に様変わりした。

そのホテルの一室に暮らしていたアフガニスタン生まれのアリ曰く、「大金を払ってボートに乗るときにキャリオンラゲ...
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難民の受け入れに積極的なスウェーデン。わたしの住むエリアにあるスキー場のホテルも難民収容施設に様変わりした。

そのホテルの一室に暮らしていたアフガニスタン生まれのアリ曰く、「大金を払ってボートに乗るときにキャリオンラゲージを積もうとしたら、『それは後の便で送るからまずは自分たちが先に行け』と言われた。結局荷物は届かず。手元に残った全財産は財布、携帯電話とそのバッテリーだけ。でも、こうして生きていられるのだから幸せ。自分がここで頑張って、生活基盤ができたら家族を呼び寄せるんだ」

これからの季節マイナス20度になることもある厳冬の地にやってきた当初、生まれ故郷とは全く違う自然環境や文化の中で、彼がどれほど不安だったのだろうかと想像する。

「国では車のメカニックとして働いていた。ドバイの会社で仕事したときには、中古のスポーツカーを仕入れに日本のあちこちを巡ったものだ」、とアリ。アフガニスタンが安全に住むことができる状況なら、家族と別れることもなく、明日の生活に不安を覚えることなく、その道のプロとして地道に暮らしていたはずなのに。彼は今その幸せを失いスウェーデンで生きている。

さて、今月「地球はとっても丸い」に寄稿いただいた原稿は、人々の多様性を改めて教えてくれる内容だ。

そして思いを巡らせた。飛行機に乗って夜、地上を眺めるとぼわーっと明かりが輝いている。広い地球のそこここに、喜びや悩みを抱えた人々の営みがあるのだと実感する瞬間だ。言葉が口からこぼれる前に、なんらかのリアクションを行動に移す前に、お互いに相手の状況や心情を、もし自分がその立場だったら、と想像する余裕がもう少しあったら、アリのような境遇の人がいなくなるのかもしれない。

2017年、みなさまのご多幸を心からお祈りしています。

(スウェーデン、エステルスンド在住/田中ティナ)