この夏、思うこと/8月

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夏樹 (フランス・パリ在住)
夏のバカンスの楽しみのひとつは、友だちとゆっくり話す時間があることだ。


我が家はブルターニュ地方の小島にある家で夏を過ごすのだが、毎回、何人かの友人に一週間ほどずつ過ごしにきてもらう。お料理したり、ジャムにするブルーベリーを採りに行ったり、潮干狩りをしたりという日常を一緒に暮らすことで、普段、話し合うことができない、その人となりの深みに触れることがある。それを機会に、私は何度、鏡のなかの自分に「これでいいの?」と問うたことか。


18歳と15歳の子どものママンであるバランチンもそんな友人のひとりだ。ジャックとの20年に渡るおしどり夫婦生活に終止符を打って数年になる。50代に入るちょっと前だというのに、自分から家を出たと聞いて、「大丈夫なんだろうか」と思っていた。


「だって、もうドキドキしないんだもの、このまま一生終るなんて嫌」


まあ20年も一緒だったら……でも、それだけの理由で? と思ったのも確かだ。


独りになってからの彼女を、私たちは頻繁に家に食事に誘った。でも、「彼」の話はまったく出なかったので、「そっかー、ひとりぼっちなのかな?」と思っていた。パリでは、年中、カップルが道端でキスしているし、色恋沙汰のゴタゴタは毎日聞くので、それを横目で眺めながら独りで暮らすのは、ほんとうに辛いはずなのだ。


しかし、このバカンス中に、秘密の話をたくさんし合って、やっぱり「彼」は存在することが判明した。ただ、結婚している人なので、表向きにはしていなかったらしい。


「でもね、この年になると、『今度こそは結婚に持ち込もう』とか、『今、出産しないともう遅い』とか、あるいは『避妊するの忘れたけど妊娠しちゃったらどうしよう』そういう思惑がなくなるでしょう。だって、私は全部経験しちゃったんだもの。見返りを全然期待しないで、なんにも求めないで、ほんとうに純粋に恋できるのって、年とってからなんだってわかったわ」


人生、まだまだ楽しい発見が待っていそうだ。


≪夏樹(なつき)/プロフィール≫
フリーランス・ライター。在仏約20年。パリの日本人コミュニティー誌「ビズ・ビアンエートル」や日本の女性誌に執筆。