第1回 どんな仕事があるのか?

アメリカ人の夫との間に、高齢で二人の男の子を授かった。次男が生まれて間もない頃だったから2006年くらいだろうか。物価高のカリフォルニアで、子供二人を育てるには夫の収入だけでは厳しい。夫は自分だけ働いているのはフェアじゃ...
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アメリカ人の夫との間に、高齢で二人の男の子を授かった。次男が生まれて間もない頃だったから2006年くらいだろうか。物価高のカリフォルニアで、子供二人を育てるには夫の収入だけでは厳しい。夫は自分だけ働いているのはフェアじゃない、と言う。私は手に職がないし、英語は下手だ。

「それなら学校に戻って、何か技術を取得して仕事を見つけてよ。君も働いてくれ」
子供を食べさせて行くために、やるしかない。腹をくくった。

“You are what you eat.”
私はこの言葉が好きだ。ファーマーズマーケットで毎週オーガニック野菜、果物、卵を買って子供に食べさせていた。自宅でハーブを育て、アロマオイルも使っていた。東洋医学やアロマセラピーには興味があった。ただ医療行為と認められず、保険が効かない場合が多い。景気が悪くなると、お客さんの足が遠のくだろう。毎月確実に収入が得られ、できれば保険や福利厚生を提供してくれる仕事がいい。

その頃カリフォルニア州では深刻な看護師不足だった。どうしようか迷っている私にしびれを切らした夫は、看護師学校に登録してやるとまで言った。不妊治療および妊娠中に超音波の検査を何回も受け、こういった専門技術を持ちたいと思い始めた。景気に左右されないし、保険が効く医療行為だ。

私に出来るのか? 全く自信はない。重い腰を持ち上げ、近所のコミュニティーカレッジ(日本の短期大学、以下コミカレ)の図書館で医療関係の仕事について調べ始めた。図書館員が勧めてくれた本を見ると、かなりの職業があった。しかも、平均的な年収、近所のどこの大学・コミカレで勉強できるかまで書いてあるではないか。

呼吸療法士、言語療法士、レントゲン技師、超音波技師、、ポリソムノグラフィー技師、歯科衛生技師、医師アシスタント、医療事務……。しかも多くの仕事は、看護師のように全米で深刻な人手不足とある。医師アシスタントのように、日本ではまだ存在していない仕事もあるではないか。

「これなら私でも仕事が見つかるかな」

ちょっと希望が見えた気がした。しかも自宅から車で十分ほどのコミカレで、医療関係のコースが沢山あり、レントゲン技師、超音波技師、呼吸療法士などのクラスがあるではないか。妊娠中、超音波にはかなりお世話になった。レントゲンと違って身体に優しい検査だ。教養課程がすんでいれば、二年間で修了できるようだ。ただし当然ながら授業は全て英語だし、実際に仕事についてからも日本語を使うことはないだろう。

「コミュニケーションを取る能力がとても必要です」とあるので不安になった。私の姑と、義理の姉に相談してみた。

「あなたには出来ないと思う。その英語力で、患者さんや医師と連絡が取れるの? 職種によっては患者さんの体液がかかることがあるのを分かっている? 無理しないで他の仕事を探したら」
以前、病院で医療事務の仕事していた義理の姉が、特に反対した。

私はこう言われ続けたことで、かえってやる気になってしまった。絶対に資格を取って、見返してやらねば。これが始まりだったかもしれない。今になって思えば、あの二人に反対されたのがよかったのだと思う。

伊藤葉子(いとう・ようこ)/プロフィール
ロサンゼルス在住ライター兼翻訳者。米国登録脳神経外科術中モニタリング技師、米国登録臨床検査技師(脳波と誘発電位)。訳書に『免疫バイブル』(WAVE出版)がある。