第3回 5年待ちの人気プログラム

自宅から車で15分ほどで行ける、オレンジコース卜カレッジで医療関係のコースがたくさんあると分かった。後で知ったが、プライベートの専門学校よりも公立のコミュニティーカレッジ(コミカレ)の方が学費は安上がりで、しかも就職率が...
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自宅から車で15分ほどで行ける、オレンジコース卜カレッジで医療関係のコースがたくさんあると分かった。後で知ったが、プライベートの専門学校よりも公立のコミュニティーカレッジ(コミカレ)の方が学費は安上がりで、しかも就職率がぐっといい。コミカレだと卒業するのに少し長くかかるが、構わない。私の姑は、オレンジコース卜カレッジで20年近く秘書の仕事をしていた。二人の息子はコミカレ付属の幼稚園に通った。私が渡米して最初に英語のクラスを取ったのも、ここだった。まさかこんな形で戻ってくるとは。人生とは「大きな輪」みたいなもの、とアメリカ人が言ったのを思い出した。

カウンセラーとの予約を取った。私は超音波かレントゲンのコースに入りたいと話した。

「両方共人気のあるプログラムですね。超音波コースを始めるには、5年待ちとなっています。レントゲンも似たような感じですね」

カウンセラーによると、不況で仕事を失った人が学校に戻って来ているという。景気に左右されない、医療関係の資格取得を目指す人が増えているのだとか。みんな考えることは同じなんだ。

「そうですか、でも5年は長すぎます」

ただし、待ち疲れて諦める人がいる。コミカレでなく、私立の専門学校で始める人も出てくる。カウンセラーは、5年も待たないだろうと言う。

「ただし、本当に自分がやりたいのが超音波か、よく考えて下さい」

私は重度の子宮内膜症があり、最初の息子は不妊治療で授かった。しかも高齢だったので、若い妊婦さんよりエコーの回数が多かったと思う。ちなみに私の産婦人科医であるグラウス先生は、超音波は一切やらない。彼女のクリニックには設備もない。必要なとき、患者は医師の依頼書を持って画像センターへ行く。超音波技士は、ひたすらエコーを行う。技士は医者ではないので、検査結果について語らない。

妊娠初期、子宮外妊娠の疑いがあったとき。夫は日本に出張で富士登山中。連絡がつかない。一人で半泣き状態で、病院のエコー室へ行った。インド系の女性技士だった。少ししてから、彼女が微笑んでいるのが分かった。

「赤ちゃんは大丈夫でしょうか?」

「私は検査については何も言えないのよ、ドクターから説明があるから」

彼女は、画像を印刷して私にくれた。幸い子宮外妊娠ではなかった。今になって思えば、この経験がエコーに興味を持つきっかけだった。アメリカで食べていくために、何か資格を取りたい。手に職を持ちたい。それなら学校に戻って、勉強するしかない。

伊藤葉子(いとうようこ)/プロフィール
ロサンゼルス在住ライター兼翻訳者。米国登録脳神経外科術中モニタリング技師、米国登録臨床検査技師(脳波と誘発電位)。訳書に『免疫バイブル』(WAVE出版)がある。