231号/椰子ノ木やほい

今月は日本に帰国中だ。いつものような夫婦だけの帰省とちがい、日本が初めてというアメリカ人大学生8名と行動を共にした。名古屋を拠点にJRパスを利用して飛騨高山、東京、広島、長崎、姫路、京都、奈良……と目まぐるしいスケジュー...
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今月は日本に帰国中だ。いつものような夫婦だけの帰省とちがい、日本が初めてというアメリカ人大学生8名と行動を共にした。名古屋を拠点にJRパスを利用して飛騨高山、東京、広島、長崎、姫路、京都、奈良……と目まぐるしいスケジュールで観光地を巡った。学生たちが、日本の何にどう反応するのか眺めながらの旅は、ことのほかおもしろかった。日ごろ日本人ゆえ当たり前すぎてスルーすることも、外国人の目から見ると不思議だったり感動に値するということを目の当たりにし、新たな発見をした。

学生たちと別れた後は、夫婦水入らずでJRパス利用の列車の旅を試みた。それまでのハードスケジュールの慰労と称し、鄙びた温泉を目指して東北新幹線に乗り込んだ。青森で列車を乗り換え浅虫温泉というところで降りてみた。趣ある宿で露天風呂に浸かりながら、学生たちにこの良さが理解できるかな?と考えた。

翌日は「北海道まで行ってしまえ!」と「はやぶさ」で新函館北斗に向かった。青函トンネルを抜けた瞬間から北島三郎の歌声で、「は~るばる来たぜ函館~」が頭の中でぐるぐるしはじめた。函館近くの湯の川温泉で、海を見ながら露天風呂に浸かっていると石川さゆりの「津軽海峡冬景色」がつい浮かんで鼻歌という始末。実はわたしは演歌は苦手なのだ。はっきり言って好きではない。ミシガンで暮らす毎日では、ジャズをはじめとする洋楽しか聴かないというのに、自分の中に残っていた“邦人力”に我ながら苦笑した。

翌日再び本州に戻り、みちのく、北上で新幹線を降りた。「北上」の地名を聞いたとたん、もう何十年も忘れていた、「北上夜曲」のメロディーと歌詞がすらすらと浮かんできたから不思議。昔、父がよく歌っていた曲だ。日本を出てから20年、自分の中にこれほど日本人の感覚が眠っていたことにちょっぴり驚いた。

北上でも、昭和ノスタルジー感覚たっぷりの温泉に遭遇できた。器で楽しむ和食に舌鼓をうったあとは露天風呂三昧。翌日は花巻に戻り、宮沢賢治記念館に寄ってみた。意外にも時間が足りないと思うほど気に入った。夫婦でこんな旅ができたことに幸せを感じながら、心から「日本人でよかった~」と思う。ひょっとするとそれこそが「海外在住日本人」だからこその賜物なのか……?

(米国・ミシガン州在住 椰子ノ木やほい)