第4回 呪いは石鹸でとる

 
道端の屋台に、黒く丸い物がざるに盛ってありました。ぱっ と見たところ、動物の糞のように見えます。何かと思ったら石鹸でした。しかも普通の石鹸ではなく、呪いを取る効果があるといいます。ギニア在住のバー由美子さんは、悪いこ...
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黒い団子のような石鹸は、隣にあるワラのような繊維で泡立てるとなお効果的

道端の屋台に、黒く丸い物がざるに盛ってありました。ぱっ と見たところ、動物の糞のように見えます。何かと思ったら石鹸でした。しかも普通の石鹸ではなく、呪いを取る効果があるといいます。ギニア在住のバー由美子さんは、悪いことが続くと「これは誰かに呪いをかけられたに違いない」と思うそうです。そんなときこの石鹸を買ってきて、体をごしごし。すると呪いが取れ、悪いことが起こらなくなるそうです。

えー、そんなことあるかしらと思いました。他人を呪う気持ちが現実に影響を及ぼすなんて。けれど、あるのかもしれません。全身全霊をかけたネガティブな想念が、強ければ強いほど。専用の石鹸を使って体を清めるというのは、呪いを取り除きたいという思いを行動に移したものであり、そこには確固たる願いが込められています。だから呪 いを跳ね飛ばすことができるのかもしれません。また、石鹸で洗ったから大丈夫と信じることにより、自らの呪縛から解放されるのかも。ちなみに写真の石鹸はひとつ10円くらい。もっと高価なものもあり、それらは呪いを退ける効果もより高いそうです。

「呪いは嘘、石鹸なんて気休め」と切り捨てることは簡単ですが、現に石鹸で洗うことで呪いから逃れられたと信じている人がいるのですから、それも一つの真実なのでしょう。ギニアの日常風景の一部なのです。ギニアの文化は奥深いとますます感じました。

ちなみに化学者の知り合いによると、この石鹸は灰にワラなどを混ぜたもので、昔は欧州をはじめあちこちで使われていたそうです。伝統的かつエコですね。私も使ってみたところ、汚れは普通に 取れるし、匂いもなく気に入りました。おまけに悪運まで取れるのだから最高。ちょうどギニアに帰省中のYの夫に、いくつか持ってきてもらうよう頼んでいます。

田口理穂(たぐちりほ)/プロフィール
1996年よりドイツ在住。ジャーナリスト、ドイツ州裁判所認定通訳。著書に『なぜドイツではエネルギーシフトが進むのか』(学芸出版社)など。ギニアではドイツから持って行った石鹸を使っていたのに、ドイツではギニアの石鹸を使っています。うちに遊びに来る人は、正体不明の黒い物体を見てぎょっとしますが、私は使うたびにギニアを思い出してご機嫌。ちなみにこの石鹸、泡立てる際に黒い液が出るので洗濯には向かないそうです。