249号/田中ティナ

2019年、年明け最初のモーグル大会ジャッジは土日連戦のローカル大会。子どもから世界を転戦するワールドカップレベルの選手までが参加し、スウェーデンにおけるモーグル種目の未来図が透けて見える、貴重な二日間となった。

選手の技術もさることながら、いちばん印象に残っているシーンは大会二日目の朝、スタートで男の子がニコニコしながらわたしの目を見て言った、「いいジャッジングでした、昨日は」のひと言だ。大会の主役は選手、ジャッジの立ち位置は大会をサポートするわき役で、職務をきちんとこなして当たり前、ミスがあったら大目玉。なにかあれば注文をつけられることはあるが褒められることはめったにない。もちろん感謝されることが目的ではないけれど、それでも、褒められればうれしい。

彼の言葉はわたしのこころに一直線に届き、まわりにいた子どもたちも、大人の役員やコーチも、場の雰囲気として彼の気持ちを共有しているように感じられた。日本人的感覚なら、「大人を評価するなんて何様だ、『ジャッジしてくれてありがとうございます』、くらいが適当だ」、となるのかもしれない。

大人も子どもをたしなめず、子どもも躊躇せず、思ったことを相手に素直に届ける手段を獲得していることは、その昔日本で空気読みを鍛錬したわたしにはまぶしく映った。もちろん、どの国でも言葉の裏を読む、場の雰囲気を察知するなど日常茶飯事だ。そのうえで、こちらでは褒められたら素直に喜び感謝するのがごく普通の応対でもある。必要以上の謙遜は、かえって怪訝な顔をされるのがおちだから。

さて、新年とともに始まった地球丸の新連載にもこうご期待。本年もどうぞよろしくお願いいたします。

 

(スウェーデン、エステルスンド在住/田中ティナ)