3フランスの奇妙なテレビ報道状況/フランス

フランスで主要テレビを見ていると、福島原発の情報をコントロールしているのではないかという疑いを持ってしまう。フランスは電力の8割弱を原発に頼る、比率からいえば世界一の原発大国だ。ありえないことではないと思う。

3 月11日から最初の1週間は、連日テレビでトップの大報道だった。でも、約1週間後の3月19日土曜日、英米仏の多国籍軍がリビアを爆撃。翌週からは、福島の扱いはがたんと減った。まるで、原発保有国が一丸となって、話題をそらすためにリビア爆撃を開始したのかと思えるほどだった。さらに4月に 入ると、フランス軍がコートジボワールに軍事介入し、そちらに話題が移った。主要民放テレビTF1の視聴者投稿欄には4月6日付で「フクシマはコートジボ ワールに浸食された。なぜもっとフクシマのことをやらないんだ」という投稿がのった(番組側は「毎日のようにやっている」と反論している)。

その 後も、私が見た範囲では、5月13日、東電が福島第一原発1号機でメルトダウンを認めたというニュースを流したテレビは、euronewsとBFMTVと いうマイナーなチャンネルだけ、5月24日、2号機3号機のメルトダウンを認めたときはeuronewsだけだったように思う。

そんなテレビの影響のせいか、反原発運動は盛り上がらない。世論調査は、ある調査では脱原発に賛成が7割かと思うと、別の調査では原発放棄に反対が6割弱など、混沌としている。

それでも、5月30日ドイツが脱原発を決めた事は、主要テレビのニュースで2番目か3番目の大きめの扱いだった。私の感じるところでは、フランス知識人の反応は「まるで取り残されるかのような不安をもった」だと思う。フクシマの後に市民は原発に不安を感じている。そこに「一抜けた。さっさと再生エネルギーに取り組みます」とライバルに宣言されてしまったのだから当然だろう。原発を固辞するフランスと、脱出宣言したドイツ。2カ国のせめぎ合いは今後、日本にどんな影響を与えるのだろう。

≪今井佐緒里≫
ニースに約7年滞在し、地中海文明を体感したのち、2009年よりパリ在住。
パリ第8大学政治学部在籍。一番興味があるテーマは異文明(異文化)間の交流。目下卒論執筆中で、事故後「欧州連合の市民権」だったのを「欧州連合の原発政策」に変更。編著に「ニッポンの評判」(新潮社)。共著に「世界が感嘆する日本人 海外メディアが報じた大震災後のニッポン」(宝島社)、ヨーロッパの章を担当。