6 バリアフリーのホテルが思い出させてくれたこと/スペイン・トレド

みなさん、こんにちは! 今回は首都マドリードから列車やバスでも40分ほどで着くユネスコ世界遺産の町トレドから、バリアフリー情報をお伝えいたします。

スペインの古都であるこの町は、奈良市と姉妹都市。大和朝廷とほぼ同時代には西ゴート王国がこの地に建国され、その後もアラブ、ユダヤ、カトリックという三大文化が共存。 細く曲がりくねった石畳が醸し出すエキゾチックな空間は、今日も多くの観光客を魅了しています。

先日は『地球の歩き方』改訂版の取材で、この町のホテルをいくつか訪ねました。中でも、1996年まで稼働していた小麦粉工場を修築し、2003年にオープンしたホテル「サン・ホアン・デ・ロス・レージェス」が特に印象に残ったのでご紹介します。全38室のうち、最も広い2室に、車椅子のまま利用できるバスルームを設置してあるのです。外出先空港やホテルなどのトイレでもおなじみの手すりがつけてあり、快適に過ごせそうです。地下には障害者専用駐車場(有料)もあり、全ホテルをあげて車椅子利用客を歓迎していることがわかります。

Hotel San Juan de los Reyes

担当者のフリアンさんは、興味深いことを教えてくれました。「車椅子の利用者はお年寄りにも多いんですよ。大家族で来られる場合、お子さんをおばあちゃんに預けて、お土産を買いに行ったり、美術館に行ったりするご夫婦もいます」。なるほど、こういうホテルがあれば、誰かを家に残す事なく、家族全員で安心して旅行できるのですね。足が不自由で、何年間もどこにも出かけないまま2年前に高齢で逝った叔父の不憫な人生を思い興しました。

今年は、パラリンピックを初めてじっくり見ましたが、選手たちの運動神経と強い精神力には完全に圧倒されました。そうですよね、車椅子だろうが義手義足だろうが、目が見えなかろうが、「動き回りたい」、「挑戦したい」、「旅行したい」、「楽しみたい」という人間の欲求は同じですよね。高校時代に身障者のグループと山登りへ行き、彼らの本音がものすごく面白かったことも思い出しました。ある「盲人」 は「俺たちさ、めくらなのに、なんで『めくら』って言っちゃダメなんだろうね。変な世の中だね」と、ケラケラ笑っていましたっけ。差別用語だからと言葉を故意に制限することは「彼ら」と「私たち」を隔てるようで居心地が悪い と思ったものです。「バリアフリー」はそこから始めないと。「みんなで楽しむ」発想があれば、差は簡単に乗り越えられると思います。

夕べオープニングに呼ばれたおしゃれなバル(スペイン風居酒屋)には、車椅子用の設備がありましたが、デコレーションに混ざって自然に具えられていました。こういう施設が増え、一人でも多くの人がこの美しい世界遺産を堪能する事を願って止みません。

HP:Hotel San Juan de los Reyes

河合妙子(かわいたえこ)/プロフィール
フォトグラファー、ライター。最新の仕事に『arucoスペイン編』(ダイヤモンドビッグ社)、女性誌『Gina』Vol.7(ぶんか社)の「World Girl´s Room」。Link Club News Letterではトレド在住のミュージシャン、アナ・アルカイデさんを紹介 現在、スペイン ABC新聞系列ABC • Radioトレド支局のパーソナリティーとして、 お笑い異文化情報を発信中。HPはwww.taekokawai.comwww.kimiplanet.com 。著書『パリのおさんぽ』(扶桑社)。共著『ロンドンのおさんぽ』(扶桑社)、『世界に広がる脱原発』(宝島)。