213号/原田慶子

先日、日本に暮らす友人たちとチャットをした時のこと。来年の夏にペルー旅行を予定している一人が、「テロの可能性がある北米を経由したくないから、ペルーには行けないかも。周囲の人も反対してるしね」と書いてきた。鬼が大笑いしそうな話だと思いつつ、私は「毎日どれほど多くの人が、太平洋航路を横断していると思ってるの? そんなことを言ったら、私は一生日本に帰れないよ」と返事をした。すると他の人がすかさず、「君子危うきに近寄らず。日本人なら当然の反応じゃないか」と反論してきたので、とても驚いた。えっ?それって当然なの?

折しも今はリマ在住者たちの日本一時帰国のシーズンだが、その中に「会社から欧米通過の許可が降りず、オーストラリア経由になってしまった」という人がいた。なんとまぁ気の毒に。しかし、テロのリスクを回避したいという会社の意向は分かるが、その他のリスクはフライト時間に比例して増加すると思うのだが……? これも日本人なら当然の反応なのだろうか。

ペルーでは毎日呆れるくらい人が死ぬ。麻薬組織の抗争や金品目当ての強盗殺人、モラル皆無の悪徳運転手によるバスの暴走などは日常茶飯事だ。加えてここはつい20年ほど前までテロ行為が横行していた国。今もその残党との戦いで、命を落とす兵士がいる。そんな国に暮らしていると、海外でテロに巻き込まれる可能性を心配するより、今日を無事過ごすほうが大切になってくる。見えない敵に怯えるよりも、向うから突っ走ってくる車がこの赤信号で止まるかどうかを、瞬時に見極めるほうが大事なのだ。

世界の出来事に無関心ではいられないし、パリだけでなく、空爆に晒されるアラブの人々に想いを馳せることもある。しかし単なる怯えは誤解と妄想、根拠のない悪意を生む。見えないものに翻弄されるのではなく、今目の前で起きている現実を注視し、日々をしっかり生きていきたい。そして新年を無事迎えた暁には、家族と共にその喜びを分かち合いたい。2016年が、皆様にとって良い年になりますように。

(ペルー・リマ在住 原田慶子)