第4回 自他共栄―柔道でつなぐ日本とペルー―後編

リマで柔道指導に励む、浦田太さんへのインタビュー後編。青年海外協力隊の柔道指導ボランティアとして過ごしたペルーに、いつか自分の柔道クラブを立ち上げたい。ペルーの子供たちに柔道の素晴らしさをもっと教えたい。その夢を実現させた浦田さんに、ペルーに戻ってから現在に至るまでと将来の目標などについて語っていただいた。

 ▼ペルーで柔道クラブを立ち上げるために、日本で準備したことは?

2年間の任期を終えて元の職場に戻ったのは、2013年6月です。日々の業務をこなしつつ、週末を利用して和歌山県にある柔道学習塾「紀柔館」に通い、指導者としてのノウハウを学ばせて頂きました。「文武両道」を掲げる紀柔館は、子供たちに柔道だけでなく勉強も教えているんです。それはまさに私が理想とする形で、とても勉強になりました。私もペルーの子供たちに日本語を教えたいと思い、日本語教師の資格を取得しました。

 ▼2017年8月にペルーに戻ってから、まずはどんな動きを?

協力隊時代の知り合いが勤める柔道クラブで、ボランティアとして柔道を教えたり、語学学校に通ってスペイン語をブラッシュアップしたりしました。それと同時に、ビザのことも考えなければなりませんでした。最初は“柔道クラブ経営”という形で投資家ビザを取得しようと思っていたんですが、資本金や従業員雇用など難関が多く、周囲の方々にも「それは絶対やめたほうがいい」と言われて。「就労ビザを取得して、そこで土台を作るべき」というアドバイスに従い、まずは就職先を探すことにしたんです。それで、日系人協会の日本語普及コーディネーターの方を紹介してもらいました。リマ市内のどこかの学校で日本語教師として、可能なら柔道教師として就職できないかと思ったんです。

2017年11月に、日本語教師を求めているという、ある私立学校の面接を受けました。その学校はペルー人オーナーであるにもかかわらず、日本の文化をこよなく愛し尊敬してくれている、まさに尊日の学校でした。そのオーナーが私の夢に共感してくれて、日本語教師としてではなく、柔道教師として雇用してくれることになったんです。しかも勤務外は自分のアカデミーのために自由に活動をしていいと。これは本当に嬉しい出会いでしたね。

 ▼素晴らしい出会いでしたね。学校では、どんなふうに柔道を教えているのですか?

プリマリア(小学生/6年)とセクンダリア(中高生/5年)を合わせて11学年、月・火・水曜で19クラスの授業を受け持っています。柔道の授業ということになっていますが、運動が嫌いな子や汗をかきたくないという思春期の女の子もいて、なかなかいうことを聞きません。なのでまずは身体を動かすことや、ケガをしないよう受け身の練習から始めています。これがなかなか難しいんですけどね。

 ▼ご自身のクラブを立ち上げたのはいつ?

2018年2月14日です。その前の2か月間が夏休みだったので、学校主催のサマースクールという形で少しだけ柔道を教えていました。それが終わるタイミングで、私のクラブをオープンさせたんです。ところが、サマースクールの時はみんな「入るよ~」って言ってくれていたのに、ふたを開けたら入会者がゼロでずいぶんがっかりしましたね(苦笑)。自身の戒めのためにも、この日を開館日としています。

 ▼クラブ名「共栄館」の由来は?

“柔道”の創始者、嘉納治五郎先生の教えに、「精力善用」「自他共栄」という言葉があり、そこから取りました。簡単にいうと「柔道で培った力を、善いことに使いましょう」「柔道で鍛えあった仲間と、ともに成長していきましょう」という意味です。いろいろ悩んだけれど、ここに暮らす邦人先輩の方々や若手、旅人たちのように、私も日本とペルーの架け橋になりたいと思って。ともに共栄していきたいなと、ペルーだけでなく世界ともつながりたいなと思って命名しました。

 ▼「共栄館」のプログラムと、現在の生徒数を教えてください。

生徒は今13人ですが、うち7人は特待生で無料です。熱心な子がいれば、ほかの子にも良い影響になるので。

クラブは月・火・水・金・土の週5回、プリマリアは午後3時から4時半、セクンダリアは4時半から6時半、夜は成人クラスです。木曜日は「毎月の月謝は払えないけど興味はある」という生徒向けに、1回10ソレス(約330円)で体験できるようにしてるんですが、なかなか希望者がいないですね。次の手を考えなければと思っています。

文武両道ということで月曜日は日本語を教えています。ただ私の場合、日本語で日本語を教える直説法での指導になるので、小さな子にはやはり難しくて。それでペルー人の日本語教師に来てもらっています。

 ▼特待生の受け入れや日本語教師への謝礼など、ずいぶん経費がかかりますね。

柔道教師としての給料だけでは賄えないので今は貯金を切り崩す形ですが、就労ビザを取得できるだけでもありがたいので、その金額に対しての文句はありません。それにクラブ運営だけで食べていけることが、最終目標ですしね。

来秘前に九州大学柔道部から古い畳を115枚寄付して頂いたので、それを船便でペルーに送りました。送料はもちろんこちらの負担でしたが、ペルーには畳がないのでこれは本当にありがたかったです。柔道をご縁に、本当にいろんな方に支援して頂いています。

 ▼今の夢や希望は?

生徒数をもっと増やしたいですね。先週末も区の公園で、柔道の実演を行って、それで1人入会してくれました。DVDも作成しましたし、チラシ配布も行っています。今私は「お宿桜子」というペンションに長期滞在という形で暮らしているのですが、ここの人たちにもいろいろと協力して頂いています。

ただ将来的には他のアカデミーと試合したり、地方への遠征もしたいので、その資金を貯めなければなりません。自分たちも貯金をしたりポジャーダ(週末に料理を作ってそれを販売すること)をしようと考えていますが、それではまったく足りない。国際交流という形で支援してくれる団体や個人がいればありがたいですが……まずはそうした方々に長く見守っていただけるよう、努力していきたいです。

柔道家らしく、常に礼儀正しい浦田さん。どんな厳しい状況も前向きに捉え、次に繋げていこうという気概をひしひしと感じた。地元の他の柔道クラブとも交流を深め、ともに成長していこうという姿勢にも好感が持てる。ペルーに戻ってから現在に至るまでの流れはかなりトントン拍子に見えてしまうが、それはきっと浦田さんの誠実な人柄と、「柔道が好き」というまっすぐな気持ちが原動力となり、周りの人たちの心を動かしたからだろう。浦田さんや彼の活動に興味を持たれた方は、ぜひ「共栄館」にご連絡を。ペルーと日本の子供たちがともに道場に立ち、手合わせする日がくることを願ってやまない。

原田慶子(はらだ・けいこ)/プロフィール
ペルー・リマ在住フリーランスライター: 2006年来秘、フリーライターとしてペルーの観光情報を中心に文化や歴史、グルメ、エコ、ペルーの習慣や日常などを様々な視点から紹介。『地球の歩き方』ペルー編・エクアドル編、『今こんな旅がしてみたい(地球の歩き方MOOK)』ペルー編、『トリコガイド』ペルー編、共著『値段から世界が見える!日本よりこんなに安い国、高い国』ペルー編、『世界のじゃがいも料理』ペルー編取材・写真撮影など。ウェブサイト:www.keikoharada.com