第17回 西アフリカでの肉食生活

西アフリカ・ブルキナファソの奥地に住んでいた当時、たんぱく源は貴重だった。モロコシの粉で作る団子にバオバブの葉などの植物系の食材で作ったソースをかけて食べるのが一般的だったが、そこに干した川魚が入ることが週に1度程度あり、肉となると、月に1回口に入ればよい方だった。

村内で手に入る肉は豚肉か鶏肉が多い。鶏肉は飼っているものをさばいて食べるが、豚肉はお金を払って買うのが一般的。時折、現金が必要になった家庭が家畜を潰して村内で販売するのを買うのだ。村で唯一の外国人である私は“金持ち”と認定されており、そういった際はたいてい最初に売りに来た。

また、村人の多くは森の奥の畑を耕す際は猟銃を携えて行き、遭遇した動物を仕留めては持ち帰り、これも村内で販売する。獲物はアンテロープ(レイヨウともいう。カモシカに似た動物)かアナグマのことが多く、滞在中、このエリアに住む野生動物のほとんどの味を知ることができた。

私が住み始めた当時はすでに開墾が進み野生動物の数が減っていた上、動物の保護政策も始まっていたので、象やライオンが口に入ることはなかったが、少し上の世代の村人たちはどちらも食べたことがあると言っていた。ちなみにライオンは「苦い」そうだ。

 

動物好きにはショッキングな話になるが、このエリアでは犬はペットではなく家畜の扱いで、名前をつけることもなく狩りなどに利用し、成犬になると食用にする。私が住み始めた当初、この家には犬が2匹いた。うち1匹はあまり賢くなく、しょっちゅう家の中まで入ってきたし、みんなが食事をしている最中でも料理の入ったタライに近づこうとしたが、もう1匹はまったく逆。いつも家の外に控え、食べ残しの骨などを投げてもらうのを大人しく待っていた。

それなのにある日、賢い方の犬が食卓にのぼった。「なぜこちらを先に食べることにしたの?」と聞くと、家主は「こっちの方が肥えていたから」とあっさり言う。そう、家畜なのだから、食べごろになった方から食べるのは当たり前といえば当たり前。滞在中は、できるだけ犬をかわいいと思わないように努めたものだった。

 

村にいる時はなるべく周囲に溶け込めるよう、売りに来た場合を除いて自分から積極的には肉を買わないようにしていた。しかし、調査した資料をパソコンに落とし込むために電気がある町に借りていた家では、周囲の目を気にせず、市場で買ってきた肉を自分で調理して食べていた。

町といっても精肉店といえるものはなく、道路の決まった場所でいつも“何か”の肉を売っている露店があっただけだった。この露店、何の肉を売るかは行ってみなければわからい。一番多いのは豚か山羊、次いで牛、馬といった感じだった。

ある日、炊き込みご飯が食べたくなり、米を研いでありあわせの野菜を切り入れ、ダシ汁をセットしてから肉を買いに出かけた。なぜ肉を買う前に全部準備してしまうかというと、当時、何の肉が手に入るか判明する前にメニューを決めるという“賭け”にハマっていたからだ。とはいえ、この日のメニューは炊き込みご飯。炒めものなどと違い、肉を選ぶメニューだ。

どうぞ今日は豚、せめて山羊でありますように。

その日、店頭にぶら下がっていたのはロバだった。しかも私の人生での初ロバ。……おいしくないですわ、ロバの炊き込みご飯。でもまぁ、酒席のネタはできたなと、ほくそ笑んだのは覚えている。

 

板坂 真季(いたさか まき)/プロフィール
アフリカで犬食に慣れたため、犬を食べるベトナムのハノイに住んだ時も、ためらうことなく地元の友人たちと犬料理店に出かけられた。しかし、よそ様のペットを撫でる時、ついつい肉付きを確かめるという後遺症も残ってしまったのだった。