フランスはヨーロッパのなかでも、もっとも多く移民を受け入れている国のひとつである。あれだけ多くの植民地を搾取していたので、当然の結果といえよう。
とくべつなケースといえば、ロマの人々である。インドからやって来たといわれる彼らは、ヨーロッパ諸国のうち、スペイン、ルーマニア、フランスに多い流浪の民で、言ってみれば移民し続けることをアイデンティティーとしている人々である。
出生地主義をとっているフランスでは、ロマといえどもフランス国内で生まれれば国籍を取得することができるが、彼らは特有の生き方をしている人々である。キャンピングカーに暮らし、ある日、ふっといなくなってしまう。フランスの制度では16歳までが義務教育としているが、彼らはなかなか学校に馴染まない。規則、時間割といったことを上から押し付けられることを好まないらしい。
南仏に住む私の女友達は、両親の世代から定住しているロマのアントニオと一緒に暮らしている。彼らの車に乗ると、干涸びたニンニクや馬蹄が転がっており、なぜか聖書も鎮座ましましている。ロマの魔除けだということだ。フランス人の彼女は、アントニオと出会って以来、人生観が一変したという。「物に執着しなくなったから、家なんていらない。いざとなったら、モービルハウスでもキャンピングカーででも暮らせる」と。
放浪の民である彼らは、お金や銀行口座を信用しない。稼いだお金は、すぐに身に付けられる宝石や金歯に変えてしまう。旅の最中になくすと困るからだという。引っ越しに手間取る大きな物はもたない。
フランスは自由の国といわれているが、こういう生き方をする人々に対して、政府は強硬な態度をとる。住所不定の人々から税金をとることは難しいし、銀行口座がない人を差し押さえることもできないからだ。ロマのこどもたちの一部は、一種のマフィアが組織する集団スリを生業とすることでも知られているが、警察に保護されても必ずしも自分の年齢を知らないから、いったい未成年として扱うか成人として扱うか、警察も途方にくれる。とくにルーマニアから流れてきたロマの人々を、フランス政府は強制送還している。欧州連合基本権憲章に反していると欧州議会から警告を受けているにもかかわらず、早朝キャンプ場を機動隊が襲い、2007年以来、毎年7000人から8000人を強制国外追放している。
ナチスの強制収容所に収容されたのはユダヤ人だけではない。ロマの人々もガス室に送られたことを、フランス政府に思いだしてもらいたい。
《プラド夏樹/プロフィール》 在仏約25年。滞在許可証を申請中の労働移民を支援する団体、サン・パピエ支援運動に参加している。