3 その美しき人生に祝福を/ペルー
『ペルー日系人の20世紀 100の人生 100の肖像』

『ペルー日系人の20世紀 100の人生 100の肖像』。日本人のペルー移住100周年を記念して12年前に出版されたこの本は、1932年に渡秘したという103歳のおばあちゃんから日系五世となる9歳の少年まで、100人の人生とその想いがそれぞれの写真と共に綴られている。インタビューと執筆は日本人移民史など近代日本人史を研究している柳田利夫氏、撮影はペルーを中心に活躍する写真家の義井豊氏。

一世たちの移住当初の苦労には、それこそ凄まじいものがあった。中には、第二次世界大戦前後の排日暴動や邦人資産の凍結で無一文となり辛酸を舐めた人もいる。たった一度の人生に、こうも度々悲惨な出来事が起こり続けるものだろうか。写し撮られた手の皺には、語りつくせぬ激動の歴史が刻み込まれていた。

しかしなぜだろう。数々の艱難辛苦を乗り越えてきたはずなのに、彼らの表情は一様にとても穏やかだ。屈託のない語り口には、茶目っ気さえ感じてしまう。中には「海外へ行ってみたかった。だから来た」という人もいて、そのシンプルな動機に感動すら覚えた。ペルーの情報などほとんど手に入らなかったと思しきあの時代、言葉や習慣の壁は現代のそれを遥かに凌ぐものだったろう。なのに、この気負いのなさといったらどうだ。

私はこれまで、「移民」という言葉にどこか重い響きを感じていた。貧しかったから、それしか生きる道がなかったから、ただ呼び寄せられたから。しかし人々はその重さを撥ね退けるだけの強さと明るさを持ち、自身の意志でその人生を歩んできたのだ。そして今では皆口を揃えて「ペルーがいい」と言う。その前向きな姿に、私は力を貰った気がした。

日系移民150周年記念の一冊が出版されるころ、私は自分の人生を笑って語れるようになっているだろうか。この手に愛おしいと思える皺を1本でも刻むことができるだろうか。私の移民生活は、まだ始まったばかりだ。

原田慶子(はらだ・けいこ)/プロフィール
ペルー・リマ在住フリーランスライター。先日、日系人協会が主催する恒例の日本文化週間が開催された。県人会によるお弁当や郷土菓子の販売もあり毎年楽しみにしていたのだが、今年は所用で行けず。大好きなユカ餅は来年へ持ち越しだ。ウェブサイト:http://www.keikoharada.com/

※『ペルー日系人の20世紀 100の人生 100の肖像』 芙蓉書房より1999年9月出版