第5回 ピヴニー スウィール - pivní sýr - チェコ

旅好きには未踏の地への憧れがいつも心のどこかにあって、ときどき無性にぜんぜん知らないところに行ってみたくなる。ここ数年、私は以前はそれほど関心がなかった東欧への興味が強まってきている。私の場合、興味の大きな割合を占めるのは食べ物なわけで、まずはどんなものが食べられるかというリサーチは欠かせない。

というわけで東欧料理を食べに出かけた。なんでも揃う東京といえども、東欧料理の専門店はそう多くない。かつて行ったことのある店に向かったのだが、正直に白状すると目当ては他の料理だった。冬にしかない料理を味わうはずが、あいにくその料理は用意がなく、あらためてメニューを眺めておもしろい料理を発見した。

ピヴニー スウィール(pivní sýr)と呼ばれるこの料理は、ホスポダ(Hospoda)と呼ばれる居酒屋で定番の庶民的メニューとのこと。クリームチーズと粗いみじん切りの玉ねぎにパプリカをふったものに、なんとビールの泡をかけてよく混ぜあわせ、黒パンに塗って食べるというもの。クリームチーズと黒パンの酸味、玉ねぎのシャキシャキ感がさっぱりとした食感。味の濃いもの、揚げ物などのヘビーなおつまみと違って爽やかでいい。

ビールの泡をかける、というのがなんとも新鮮だし、混ぜ合わせるというひと手間がまた楽しい。粒マスタードのほか、ニンニクなどを加えるレシピもあるようで、それぞれの店の味があるのだろう。食べる人それぞれに好みもあるだろうから、鍋奉行ならぬピヴニー スウィール奉行みたいな人がいたりするのかもしれないなぁ……などと、まだ見ぬ土地の居酒屋の風景に思いを馳せてみる。

私は……といえば、鮮やかな刺繍の美しい衣装に身を包んだお店の人が手際よく混ぜ合わせてくれたものをおいしくいただいた。店にはこのメニューのほか、ブランボラークというポテトパンケーキや、グラーシュという牛肉のビール煮込みなどの代表的なチェコ料理のほか、リトアニアやポーランド、そしてロシア料理などが楽しめる。また、東欧関連の書籍や絵本、雑貨などもあって、料理以外の東欧文化にも触れられて楽しい。

東欧への旅へ心を誘う店で、いつもとはちょっと目先の変わったメニューとお酒を味わってみてはいかが?

だあしゑんか

≪福子(ふくこ)/プロフィール≫
東京在住。日本とアジアを中心に世界各地を、旅モノと食べモノをメインテーマに飛び回る日々。忘年会、新年会とたんまり食べる機会がいっぱいの年末年始。せっかくちょっと順調だったダイエットもリバウンドの危機。今回はビールによく合うチェコの居酒屋メニューをご紹介。今年の世界旅行はおしまいですが、新しい年も引き続き、世界各地の味をお届けします。みなさま、ステキな年末年始をお過ごしください!