これまで住まいはいずれも集合住宅で、一軒家に住んだ経験のない私。引っ越してから実感したのは、建物や周囲の生活環境を整えるのはすべて自分たちの責任であることだった。集合住宅では規則や制約があって自由度が低い反面、たとえば、インフラに問題があればまずはオーナーや管理人に相談することができる。一軒家の場合、当然ながらそれはどちらも自分たちだ。水が出なくなれば直すのも自分。もちろん専門家に外注することもできるけれど、人件費等のコストや手配の手間を考えると、できることであれば自分たちで対応するほうが賢明なのだ。
さて、2011年秋に引っ越してから、2回ほど厳冬期を経験した。冬の気候は頭では理解していたので、窓や断熱材など家の防寒対策は万全を期したはずだったのだが、マイナス30度を超える寒さに堪えきれずに水まわりのシステムが悲鳴をあげた。
2012年2月、出張先から帰宅途中、夫に電話すると、「朝起きたら水の出が悪いんだよね」、と意気消沈した声が聞こえてきた。私はその日のうちに洗濯、パッキングして翌日また出張へという綱渡りの予定。水が出ないのは大いに困った状況だった。地下のポンプ室も断熱材で囲み、設置したホンプやパイプも凍結防止の断熱には気をつけていたのだが、マイナス37度のほうが一枚上手だったようだ。それこそ凍えるような寒さの中、夫はポンプから屋内へと水を運ぶ凍てついた水道管内に凍結防止用の電気ヒーターをとりつけ、私が帰宅するころには水道は無事開通。おかげさまで私は滞りなく旅の準備をすることができた。蛇口をひねれば水が出ることがごく当たり前、という生活に慣れてきっていると、水が出なくなってはじめて、その便利さに気がつくことになる。我が家の管理人さん、ありがとう。
入ってくるところがあれば出口もある、というわけで水関連のトラブルをもうひとつ。今年1月、今度は下水の調子がおかしくなった。このときも夫はひとりで自宅にいて、1階にあるトイレの床が水浸しになっているのを発見。我が家の下水システムは地下で3つのタンクを使って排水を浄化している。最終的にはろ過した水をポンプで地中に排出するのだが、そのポンプが故障したのだ。その結果、排出されずに行き場所がなくなった水は、大きな3つのタンクとタンク間のパイプを満杯にし、さらに家のバスルームにあふれ出たというわけ。これが夏場だったらポンプを交換して排水すれば修理完了、となったのだが、タイミング悪く季節は真冬。夫も仕事で忙しく、ポンプ交換などを手配する数日間に、タンクをつなぐパイプにたまった水が全面氷結したからたまらない。ポンプを換え、タンクを空にしても、パイプが詰まっているので下水は流れない。出張の合間に友人(この家のテクニカルアドバイザーで下水システムの設置者)の助けを借りてパイプに高圧の水を流し続けて氷を溶かし、ようやく3月にパイプが全面開通した。
パイプは地上からの寒さによる凍結を考慮して、地下約1mには埋めたのだけれど、この地方の厳冬期対策には十分でなかったようだ。再発防止のために、①ポンプが停止したときのアラーム設置、②地面を掘ってパイプやタンクを断熱材でカバー、このふたつの対策を夏のプロジェクトに決定した。
水道から水が出ても、流れる水の行き先が詰まってしまえば水は使えない。上下水道そろって機能してはじめて快適に暮らすことができる。上下水道の事故が我が家の管理人(夫)不在中におきていたらと思うとぞっとしたことも付け加えておこう。
また、いきなり停電したときに実感したのが、「オール電化ハウス」という事実。唯一、薪ストーブで暖はとれる。でも、調理はIH、上下水道や暖房システムを動かすポンプ、テレビ、冷蔵庫、皿洗い機やコンピュータも電気がなければただの置物に変身だ。予告なしの停電はいつ終わるのかかいもく見当がつかず、とても不安だったことを覚えている。
夏場の一休みは、フィーカ(お茶の時間)も仕事のあとのワインもお日さまきらめく屋外がいい。
となると、ほしくなるのがウッドデッキ(テラス)。
2012年夏、後ろのドアから出ることができるテラスをコンクリートの土台から製作。
9月に造った玄関ポーチは、ドアを雨から防ぎ長持ちさせる効果もあるとか。
2012年夏、家自体は細かい手直しや気になる作業はあるけれど、そのままでもまあ当座問題ないことばかり。私たちはリノベーションのために両肩にのしかかっていたプレッシャー、「やらなければいけないリスト」から開放され、後回しになっていた外回り、バルコニー、テラス、玄関ポーチにボート用の桟橋をあつらえた。それにしても、締め切りにせっつかれない作業は逆にやる気モードも高まって、作業自体も楽しめるし、完成後の乾杯も実にさわやかな味だった。
「古民家再生プロジェクト」をとおしていちばん強く思ったことは、「家は生き物、家族の一部」ということだ。ほったらかしにしていれば朽ち果てていくけれど、愛情をもって大切にケアすればちゃんとそれに応えてくれる。
「私たちに安心と安全を与えてくれる『家』。生かすも殺すもオーナー次第、と自覚しておりますので、これからも末永くどうぞよろしく。いっしょに年を重ねていこうね」。
と、書いていたら隣で夫がひとこと、「家って建て終わってみると、やっぱりこうしたほうがよかったなぁ、と改善点が見えてくるから、『理想の家は3軒目』、っていわれるんだよ」。
「そんな恐ろしいこといわないでっ。私は1軒目で大満足です!」
12月のある日。クリスマス用の電飾でちょこっとおめかしした我が家。
連載は今回が最終回。最後までおつきあいいただきありがとうございました。
これからも家族と家を大切にして生活していきたいと思っています。
《田中ティナ/プロフィール》
エステルスンド在住。ライター、写真撮影、翻訳・通訳業。冬はフリースタイルスキー(モーグルなど)のジャッジとして活動。義母より譲り受けた古民家を足かけ4年かけて改築し、2011年秋に引越し。2013年夏は裏庭を整備予定。いずれは車庫増築も検討中。