それが習性であっても、訓練されたものであっても、はたまた趣味(!)であっても、動物たちは人間をさまざまな場面で助けてくれる。警察犬、盲導犬、災害救助犬などはよく知られるところだが、もっと私たちの身近なところで、彼らは役に立ってくれている。
競「馬」場に、羊?
もう数年前のこと。私が住む町にある競馬場の近くを車で通った時に「あれ?」と思った。そこにいたのが、馬でなく、羊の群れだったからだ。かたや、芝生が敷きつめられた、学校の校庭に牛や馬が、また普通の家の庭にヤギがいる。理由があるに違いない。
もちろん競馬場にいた羊たちは競争するためにそこにいたのではない。彼らは「芝刈り機」として、放されていたのだ。敷地内の芝は羊にとってご馳走以外の何ものでもない。喜んで食べ、草刈り役を務めてくれる。学校の校庭の牛や馬、一般家庭のヤギもまた、しかり。
実にエコ・フレンドリーな方法だ。羊のげっぷやおならが地球温暖化を悪化させると言われる向きもあろうが、それでも化石燃料を使う上、二酸化炭素を排出する芝刈り機や、土壌に悪影響を及ぼす除草剤と比較すれば、言うことなしではないか。
この「動物芝刈り機」を、ビジネス上利用しているのが、イーランズ・エステート。世界の飲料業界のサステイナビリティ度を審査する2012年・ドリンクス・ビジネス・グリーン・アワーズで世界2位を取ったワイナリーだ。ここで芝刈り役として活躍しているのは、通称ベビードールと呼ばれる種類の羊。小型なので、ブドウの実が食べられることもなく、落としたフンは肥料になるので、一石二鳥なのだ。
ポイ捨て人間に、爪の垢を煎じて飲ませたい
動物がその習性を生かして人間に手を貸してくれることもあれば、盲導犬などのように、訓練を受けた上で、私たちを助けてくれるケースもある。
北島、オークランドに住むカップルが飼う犬のフレッドは、「ごみ拾い犬」。国内では、ごみの始末をきちんとするよう、「Be a Tidy Kiwi」という標語があるが、ごみのポイ捨ては跡を絶たない。そんな人間を尻目に、フレッドはすでに何千というごみを拾い、ごみ箱に捨てている。今は、「エコ優等生」のフレッドだが、もとは野良犬で、犬のしつけ教室では、他の犬に攻撃的な問題児。しかし、飼い主の忍耐と努力の結果、このスキルを身につけた。
彼がごみを拾うことで、環境の美化が進められるのは言うまでもない。と同時に、注目度抜群なので、周囲にいる人々に「人間がこれではいけない」と思わせるのにも役立っている。
「ボール探し部長」は仕事一筋
南島のダニーデンにあるチズホルムパーク・ゴルフ場勤務の「ボール探し部長」といえば、犬のボスディンだ。散歩中に、ゴルフ場に興味を持ち、飼い主が、試しにコースに連れていくと、大変気に入り、その日から毎日のように通うようになった。
通勤してはボール探しの仕事を熱心にこなすボスディンは、マナーも抜群だ。決してボールに触ったり、くわえたりしない。ボールを見つけると、その横に座り、持ち主が取りに来るのを、我慢強く待つ。ゴルファーにとっては真剣勝負の場であり、かつ芝の手入れの行き届いたグリーンはご法度と思っているらしく、足を踏み入れない。
そんなボスディンは常連客に大人気。「ボール探し部長」としてだけでなく、ゴルフ場の「マスコット」としての地位も確保している。
人間は車の運転から引退?
年に何百匹という犬が、虐待されたり、捨てられたりして、動物保護団体SPCAに保護されている。より多くの人にこうした犬の里親になってもらうべく、「Driving Dogs」というキャンペーンが行われた。その名の通り、犬が車の運転にトライ。「こんなに頭が良い私たちを、あなたの家族の一員にしてください!」とアピールするのが狙いだ。これには、施設が預かる犬は頭が悪く、かわいくないと誤解している人がおり、それを払拭する意図もある。
ドライバー犬に選ばれたのは、ポーター、モンティ、ジニーの3匹。彼らは8週間にわたる訓練を受け、その間、車は犬仕様に改造。果たして犬は車の運転ができるのか? 昨年末、テレビの生中継でその成果が発表された。人々が固唾をのんで見守る中、犬たちは見事なハンドルさばきを見せ、車の運転に成功。これが国内はもとより、海外でも評判になり、フェイスブックの「いいね!」の数は2万を優に超えた。そのうち、車の運転は犬にお任せという時代が来るかもしれない。
しかし、あまりにも動物たちが優秀だと、近い将来、庭の芝生はボーボー、ごみも散らかりっぱなし、ゴルフに行ってもボールを捜さず、車の運転もしない怠け者の人間が増えそうだ。それじゃあ、いけません! 私たちもがんばらなくっちゃ!
《クローディアー真理/プロフィール》
フリーランスライター。1998年よりニュージーランド在住。文化、子育て・教育、環境、ビジネスを中心に、執筆活動を行う。動物関連のニュースで最近一番驚いたのは、北島のタウランガという町で、死にそうになっている猫が、犬の血を輸血してもらって助かった話。今もその猫は元気で暮らしているそう。すごい!