第4回 ここにしかいない鳥たちの風変わりな一面

「ピーーーーーーーョ、ピーーーーーーーョ!」 今まで聞いたことがない高い鳥の声に、朝から木々を見上げる。姿は見えない。私が家の中に引っ込むと、またしても思わせぶりに、高い声で「ピーーーーーーーョ!」。どうしても姿が見たかったのだが、結局かなわなかった。後で夫にその話をすると、「それって、きっとツイだよ」と言う。「でもツイは『パーパーパーギャギャギャ』って感じの鳴き声だったと思ったけど」と反論して、思い出した。この鳥はほかの鳥の声や音をマネするのが、とても上手なのだ。その証拠に、以前隣町に住むツイが、ピザハットのテレビCM中に流れる宣伝歌を歌うと話題になったことがある。

ユニークな鳴き声・鳴き方

ものマネ上手な鳥もいれば、「方言」をしゃべる鳥もいる。北島の13の島々に生息するノースアイランド・サドルバックの鳴き声を島ごとに比べてみると、30パーセントは「標準語」だったが、実に70パーセントは「方言」、つまりその島内のサドルバックの間でしか通用しない鳴き声だったというのだ。人間であれば、言葉の壁を乗り越えて、愛を成就させることもあるが、サドルバックの場合は期待薄。ある島のオスが、ほかの島のメスに一目ぼれし、甘い言葉をささやいたとしても、メスにとっては意味を成さず、カップル誕生というわけにはいかない。これは、島ごとに小規模な進化が起こったためと考えられている。

「サドルバック」の名の通り、背に鞍の模様がある。南島にはサウスアイランド・サドルバックが生息
© Duncan angrysunbird

また、ニュージーランドのシンボル的な存在であるキーウィの一種、リトル・スポテッド・キーウィはオスとメスで鳴き合う時、ハーモニーを奏でることがわかっている。これは、他のどの鳥にも見られないことだそう。この国ではお馴染みの鳥だが、まだまだ未知の部分が多く、なぜオスとメスが調和の取れた響きで鳴き合うのかもその謎のひとつだ。

全部で5種類のキーウィのうち、最も体が小さいのが、このリトル・スポテッド・キーウィ
©ZEALANDIA: The Karori Sanctuary Experience


鳥の世界でも「カミングアウト」

今年の8月中旬から同性同士の結婚が法的に認められるようになるなど、LGBT(レズビアン・ゲイ・バイセクシャル・トランスジェンダー)に対し、比較的寛大なニュージーランド。どうやらここに住む鳥たちもその国民性を受け継いでいるようだ。

まずはベルバードの1羽、ブッチ。生まれた直後にはメスと判断されたこの鳥だが、成長するにつれて、メスの特徴である目の下や羽の付け根の白い羽根に加え、オスの特徴である頭、尾、羽の暗い色の両方を持ち合わせるようになった。鳴き方や縄張り意識など行動パターンはオスそのもの。生物学者はこれを見て、「トランスジェンダー・バードだ」と舌を巻いたそう。

英国の探険家、クック船長に「さえずりが鈴の音のようだ」といわれた © By Benchill

た同性カップルも存在する。キーウィ同様、飛べない鳥、タカヘのストーミーとミスター・ブルーはどちらもオスだが、夫婦同様、実に仲睦まじく暮らしていた。が、もちろん卵を産むことは望めない。そこで、偽の卵を巣に置いてみたところ、それを孵そうと、両方が代わる代わる巣に座るのだという。そこで、それを本当の卵に置き換えてみたところ、見事卵は孵り、2羽とも子育てに勤しんだという。

しかし、このカップルには悲しいエピソードが待ちうける。環境局が、繁殖プログラムにこの2羽を加え、彼らにジェイジェイというメスをあてがった。するとストーミーはジェイジェイと見事カップルとなったが、ミスター・ブルーは追われ、行方不明に。最後には沼地でその遺体が見つかる。人々は皆、ミスター・ブルーは失恋で自殺したのだと疑わなかった。

タカヘは一時は絶滅したと思われていた。現在も絶滅が危惧され、手厚い保護が行われている
© Malene Thyssen

の動物には表情があって個体差が見てとれるが、鳥はどれも同じような姿をしている上に顔も小さく、普段格別個性的だとは、私たちは思っていない。でも本当はこんな変り種もいてびっくりさせられる。そのへんでえさをついばんでいたり、木にとまっていたり、何気なく見かける鳥たちを見る目が変わりそうだ。

クローディアー真理/プロフィール
フリーランスライター。1998年よりニュージーランド在住。文化、子育て・教育、環境、ビジネスを中心に、執筆活動を行う。7月下旬にもなれば、緋寒桜で我が家の裏庭は濃い桃色に染まる。それを目当てにやってくる鳥の多いこと。その筆頭でもあるツイの追いかけっこは、桜の花以上に楽しみだ。