第1回 アリス・ウォータースの長年の夢「Edible School Yard」(学校菜園)

全米の中でも最も健康志向が高いサンフランシスコは、「オーガニック」の街として知られている。その発祥の地であるバークレー市に、アリス氏が「シェ・パニーズ」をオープンし、オーガニック文化をいち早く取り入れ43年になる。サンフランシスコでは、トップレストランのほとんどが 地産地消、オーガニック食材を調達し、ファーマーズマーケットは毎日開催され、私達の身近に美味しいものが溢れている——そんなオーガニック食文化がこの街に息づいている。

私は以前バークレーに住んでいたので、ファーマーズマーケットやレストランでアリスと会う機会が何度かあった。世界的に有名なアリスも、バークレーでは一住人。お茶目でシャイな一面を持ち合わせるアリスはどんな人とでも普通に接し、撮影中にお腹が空いたカメラマンの口に食べ物を運んだり、取材班を自宅に招待したエピソードもある。私とでも立ち話をしたり、時々“ハグ”もしてくれる。私はそんな隣のお姉さん的なアリスが大好きで、ライターとしても強くインスパイアされている。彼女から発進された”オーガニックライフ”を書きたくて、先月ダイヤモンド社より『California Organic Trip』という著書を発行した。

取材をするたびに、このテーマへの士気が高まっていくのを感じた。その中でも特に刺激を受けたのが、アリスが長年子供達の食教育の為、熱心に取り組み、運動を続けてきた「学校菜園」だ。このプログラムは、校庭に小さな畑を作り、子供達自ら野菜を栽培し、それを調理することで、食の尊さとサステイナビリティーの大切さを学ぶというもの。何十年もかかってようやく実践され、今や全米、そして世界に発信している。その第一校である、バークレー市のマーチン・ルーサー・キングミドルスクール(中学校)を訪ねた。


学校では、突然の見慣れない訪問者にも関わらず、生徒達は明るく迎えてくれた。「何の撮影をするの?」「どこから来たの?」と明るく好奇心旺盛の子供達はカメラにポーズを取ってくれた。それぞれ肌の色が違うが皆仲良しだ。「畑はあっちだよ」!と一人の生徒が自慢そうに案内してくれた。そこには、生徒が手書きで書いた「Edible School Yard」(学校菜園)の看板と自分たちでデザインした野菜畑の案内地図があり、手作り感が伝わる。奥にはハーブ園、鶏小屋、ウッドファイアオーブンまであり、プロさながら。そしてここには唯一、子供達が育てたオーガニック野菜や鶏を調理するキッチンがある。その横に、「エディブルヤード」の発起人であるアリス・ウォータース氏の9つの思想が書いてあった。「ローカルでサステイナブル農法の食材を使いましょう。一緒に料理しましょう。一緒に食べましょう。食は貴重なものと知りましょう……と彼女らしい暖かい言葉。バークレー市は多民族が集結したユニークな街で黒人の居住者も多い。かつて非行や肥満の問題が山積みだった学校教育も、食育を通じてか、こんなに子供達の顔を明るくしているのかと思うと、胸が熱くなった。

「学校菜園」の実施校は現在米国で100校以上、 アリスの哲学を盛り込んだ食育プログラムをサポートする団体は世界で3500カ所にものぼる。アリスはホワイトハウスにも何度も心のこもった手紙を書き、ホワイトハウスの「オーガニック菜園」も実現させた。また、彼女の 地道な努力により、バークレー市では、公立小学校から高校までの全校でオーガニック食材を使った給食制度を実施している。「食が世界を変える」というアリスの願いは、40年以上かけてバークレー市から世界に食改革をもたらしている 。私も著書を通じて「学校菜園」を日本の学校に根付かせたいと考えている。

※ The Edible Schoolyard Project(英語)

関根絵里(せきねえり)/プロフィール
ライター/ コーディネーター
福岡県出身、関西育ち。1996年サンタバーバラに移住。1999年に大学卒業後、サンフランシスコでタウン雑誌の支局長を勤める。
2004年よりフリーランスになる。現在、フード、トラベル、ライフスタイルの記事を中心に各雑誌にコラムを執筆中。サンフランシスコ在住。

2014年の主な仕事:  記事:「ELLE a Table」「PEN」 西海岸特集、「ミセス」(ワールド)「Japanese Restaurant News」「ボディープラス」
コーディネート:「地球の歩き方」サンフランシスコ/シリコンバレー版、「まっぷる」西海岸版、「タビトモ」サンフランシスコ
著書:『カリフォルニア. オーガニックトリップ』(ダイヤモンド社)(2014)