第4回 「アレ」で、ファンドレイジング

ファンドレイジングは資金集めが目的だ。お金を得るために、直接寄付してもらったり、集めた物品を売ったりする。しかし、必ずしも善意イコールお金ではないケースがあって、そんな時に頻繁に登場する、便利なグッズがある。決して珍しくない、どの家庭の台所にもある、「アレ」だ。

「カンズ」映画祭

皆さん、「カンヌ映画祭」はよくご存じだと思うが、「カンズ映画祭」はどうだろうか。カンヌ映画祭は、フランスのカンヌで行われる、有名な国際映画祭だ。一方、カンズ映画祭は年に1度、ニュージーランドで開かれる映画鑑賞会で、「カンズ」というのは、実は「Cans(『缶詰』の複数形)」のことなのだ。映画鑑賞と缶詰と、一体何の関係があるのだろうか。

ニュージーランド全国津々浦々で行われるカンズ映画祭。最新作ではないといえど、開催と同年に封切りとなった新作映画を観ることができる
© Heinz Wattie’s Ltd.

今年23回目を迎えるこの会は、上映される映画が最新作ではないこと、入場料を取らないことを除いては、普通の映画鑑賞と何ら変わらない。入場無料とはいっても、タダではない。そう、缶詰が料金の代わりになるのだ。

10月下旬から11月初旬に、全国各都市で行われ、主催は国内の大手食品会社、ワティーズ社。同社は、観客が映画を見るために持参した缶詰を集め、それと同じ数だけ、自社の缶詰を追加し、救世軍(キリスト教の教えに則り、世界127ヵ国で困窮者を支援している慈善団体)に寄付している。クリスマスは、多くの人にとり、家族が集まり、おいしいものを食べ、プレゼントを交換する、年に1度のメインイベントである一方で、生活困窮者にとっては、物質的にも精神的にも最も厳しく感じる時期。缶詰は恵まれない人のストレスを少しでも和らげようと配られる。

賞味期限内の缶詰であれば、ブランド、値段、中身、数は問わない。どんな缶詰もOKだ。持ってきた缶詰と引き換えに、観客は映画館内へ。直接的にお金はかからないので、得な気分を味わえる上、自分が持ってきた缶詰が用立てられるうれしさもあって、映画はいつもより楽しい。

昨年は約2万個の缶詰が集まり、ワティーズ社の分2万個も含め、計4万個が救世軍を通して、経済的に苦しい人のもとに届けられたそうだ。

缶詰でおいしいコーヒーを

2013年、営業はたった1ヵ月ほどと限られていたにも関わらず、異色のポップアップ・カフェ(空きスペースや店舗に前触れなく出店し、ある時期が来ると閉店してしまう期間限定のカフェ)が大評判になった。ニュージーランド最大の都市オークランドの郊外にあった、「ローカルズ」だ。ローカルズでも缶詰が活躍。代金を支払う代わりに、缶詰と引き換えにコーヒーが飲めるというシステムだったのだ。このユニークなアイデアに、一般客だけでなく、近隣の店舗も賛同。コーヒーを飲みに缶詰を持ってきてくれた客には、ケーキーショップが寄付した焼き菓子がおまけについてくるなど、大いに盛り上がり、缶詰は日に360~400個も集まったそうだ。

ローカルズで集められた缶詰。引き換えに飲めるコーヒーも、コーヒー焙煎とカフェ経営で国内指折りの、「カフェ・ラファーレ」が豆を提供しただけあり、本格的な味だった © Locals

ローカルズのオーナーだったグレッグ・コーンズさんは、現在別のカフェを経営している。「グッドネス・グレシャス」だ。そこでも、折々に缶詰と引き換えに、コーヒーを出している。ローカルズ時代も、グッドネス・グレシャスになってからも、缶詰の寄付先はオークランドシティ・ミッション。この慈善団体は、市内の困窮者を衣食住などの面でサポートしている。他のカフェでも最近は、グレッグさんが手がけるカフェを見習い、同様の活動が行われている。

償いは缶詰で

缶詰を使ってのファンドレイジングと、ちょっと似ているのが、ウェリントン図書館の「フード・フォー・ファイン(罰金の代わりに食料を)」プログラムだ。図書館では、借りた本を返却期限までに返さないと、罰金が課せられるが、中にはそれを支払わない人がいる。「フード・フォー・ファイン」は、罰金未払いの人のために、クリスマスの時期に行われる、「アムネスティ(大赦)」なのだ。罰金は支払わなくてもよいから、代わりに食料=缶詰を持ってきてください、という趣旨。集められた缶詰は地元のフードバンクに寄付される。過去には644NZドル(約5万円)もの罰金があった人が、申し訳ないとばかりに、合計214個もの缶詰を図書館に持ってきたこともあったとか。

缶詰は何の変哲もない、日常的なものだけれど、アイデア次第で善意を届ける側も、受ける側も温かい気持ちにしてくれる。ここでご紹介した以外にも、缶詰1個で、皆をハッピーにすることができる活動がありそうな気がする。

クローディアー真理/プロフィール
フリーランスライター。1998年よりニュージーランド在住。雑誌、ウェブサイトを中心に、文化、子育て・教育、環境、ビジネスといった分野で執筆活動を行う。