224号/プラド夏樹

アメリカの新大統領に、「米国人優先」を一政策とするトランプ氏が当選した。移民として暮らす人が多い「海外在住メディア広場」のこと、身の危険とまでは言わないまでも、なにやらゾっとするようなものを感じた人は少なくないと思う。

アメリカだけではなく、ヨーロッパ各国でも、「国としてのアイデンティティーを明確にするために、移民を追い出そう」と説く極右翼の台頭が心配されている。私が住んでいるフランスの大統領選挙では、極右翼政党は毎回第3位という、かなりの票を集める。

ところが、最近、こんなことがあった。モロッコで生まれ、高校まで通ったライラ・スリマニ氏が、日本の芥川賞に匹敵するゴンクール賞を受賞したのだ。同時発表されたルノドー賞も、ユダヤ系ロシアとイランの血が流れるヤスミナ・レザ氏だった。伝統にうるさいフランス文化ですら、異文化を吸収してこそ発展することの証だろう。

ところで、「地球はとっても丸い」今月号は、スペイン、ニュージーランド、アメリカ、長崎についての原稿で、どれも、現在、移民として外国で生活している、あるいは生活していた経験のある皆さんの原稿だ。世界中の文化が日本語を媒体として交差するという意味でなかなかユニークな存在で、来年は13年目を迎える。こんな媒体を続けていくことが、「異文化の存在は危険」と感じる人々への、なんらかのメッセージとなるといいと思う。

(フランス・パリ在住/プラド夏樹)