137号/田中ティナ

風光明媚な立地から「アドリア海の真珠」と称され、世界遺産にも登録されているドゥブロヴニック(クロアチア)。町をくるりと取り囲む城壁から眺めると、建物の間が狭く瓦屋根がびっしりと連なっているように見えるのが特徴だ。宮崎アニメのモチーフに起用されたとも聞いたが、赤っぽい色の屋根が澄みきった青空とアドリア海に映え、絵本のワンシーンのようにも見えた。


旧市街の細い路地をたどると軒先には洗濯物がはためき、新鮮な魚が獲れる土地柄か野良猫がそこここで憩っている。ベンチではおばさま方が世間話にいそがしい。そこに私のような観光客が国内外から押し寄せる。こんな現実が世界遺産の中で同居しているのだ。


さらに現実はシビアらしい。「旧市街はね、居住面積も狭くて限られているから、このところどんどん住民が減ってるんだよ。城壁をちょっと出たら庭のある家にもっと安く住めるんだからね」と話してくれたのはタクシーの運転手だった。


さて、我が家から100kmほどにあるオーレはスウェーデンでも人気のスキーリゾートなのだが、こちらも同じような境遇だそうなのだ。


近年リゾート開発が進み土地も値上がりして何かと住みにくくなり、古くからの住民は少し離れた隣村に引っ越すパターンが増加中。「オーレには愛着があるけれど同じ家賃で広いところに住めるし、今までの仕事場まで通うのもすぐだから」と友人のリカード。


開発が地元住民に仕事をもたらし、観光客を誘致して経済効果を挙げている。プラスの事実の反面、長年住んできた人にとって住みにくくなってきたという現実がある。時代の移り変わりとはいえちょっと寂しい。


(スウェーデン/エステルスンド在住 田中ティナ)