夏樹 (フランス・パリ在住)


9月末、息子(14歳)はマルゴの家で開かれたソワレ(仏語で、夜0時頃までのパーティーのこと)に行った。よくよく聞いてみると、相手方の両親は不在で、中学生(注1)である子どもたちだけで集って、そのあとは雑魚寝するということだった。うちの子どもがソワレに行くようになったのはこの1年のことである。母のほうも、いろいろ学び、息子もいろいろと悪知恵をはたらかすようになった。母はカンを磨き、息子は弁舌に長けるようになった。


「だめ、相手のご両親がいないんなら、なにが起きるかわからないから、絶対反対」


これが、最初の私の答えだった。


しかし、敵も食い下がる。「どうして?みんな行くのにー。友だちって大切だって、このまえ言ってたじゃないか、矛盾してるよ」


一度感じた悪い予感は拭えなかった。恨まれることを承知で、「じゃ、行ってもいいけど、0時には家に帰って、ここで寝なさい」と言い、二の句を継がせなかった。


数日後、なにが起きたかが判明した。マルゴのお母さんから「9月26日の夜、ソワレに参加したお子さんの両親へ」というメールが回ってきたのである。


「9月26日の夜、マルゴが自宅でソワレを開きました。皆さんのお子さんもいらっしゃったと思います。私は旅行に出ており、不覚にも、このことについてはまったく知りませんでした。
昨日、帰宅すると、家の中は凄まじい状態でした。ゴミ袋4つのなかには、各種アルコール類の空き瓶、タバコの吸い殻、ハッシシ、マリファナの吸い殻(注2)。壊れた家具もあり、床には汚物が散らばっており、戸棚は荒らされていました。


プロの掃除人に来てもらっても、6時間かかりました。


同じ建物に住む隣人たちのはなしでは、夜通し、100人から150人の子どもたちが、私のアパルトマン、建物内の階段とホール、入り口を占領していたということです。誰がしたのか、フェイスブック(注3)から自宅のアドレスと建物のコードが漏れ、学校にまったく関係のない、招待されてもいない子ども、若者たちがたくさんいたようです。最後には、警察が来て、無理矢理お開きになったと聞きました。


このことについて保護者で集って話し合いたいと思います。10月11日の17時に、私の家にお集りいただけますでしょうか?


追伸:私の娘に大きな責任があるのは明らかなことですが、家が汚れ、ものが壊れており、盗まれていたことにかんしては、参加者全員に責任があることをお忘れにならないようお願いします」


やっぱり!である。ソワレのあった晩、息子は0時15分に帰ってきてすぐ寝たのだが、明け方、私がトイレに行くとき、息子の友人のジュールがドアのベルを鳴らした。ジュールはマルゴの家で寝ることになっていたはずなのに。


「どうしたの、こんな時間に?」


「うるさいからっていって、隣の人が警察呼んで、外に出されたの。ずっと、ぶらぶらしてたけど、疲れちゃった。寝させてくれる?」


と、言った。まあ、いいやと、そのときは思い過ごしたのだが。


10月11日、17時、マルゴのお母さんの家で有志の親だけが集った。いろんな真実が発覚した。「ソワレに行くんだったら絶対、親御さんがいないとダメ」と言い張った親には、マルゴのともだちであるマエの電話番号を「これがママンの電話番号」と言って教えていた。実際に電話をかけてきた親には、マエが「母親らしく」対応し、「心配なさらないで、私がソワレの間中、家にいて監視しておりますので」と言っていたことも。
ただ、私がいちばんひっかかったのは、子どもたちが嘘をついていたことではない。こういう大人数が集るソワレ専門の泥棒が入り込んで、戸棚を漁ったことでもない。そうではなくて、誰が汚したかわかっている家の掃除にプロの掃除人を雇うという感覚だ。参加者全員を呼び集めるのは無理だとしても、なぜ、このソワレを企画した子どもたちに掃除させないのか?


でも、こういう発言は、日本の小学校のように放課後にお掃除当番をする習慣がないこの国では、あまりウケない。怪訝な顔をされる。お掃除はそれを専門にしている人々がいるので、彼らに任せて当然なのだ。「汚い仕事でも、喜んでしてくれる人々がいるんだもの、お金を払ってしてもらえばいいじゃない」


何年暮らしても、こんなとき、自分をすごーく「外国人」に感じてしまう。


(注1):中学生は11歳から14歳までの4年間。
(注2):3分の1の15歳がマリファナ、ハッシシを吸ったことがあるという統計が出ているほど簡単に手に入る。ドラッグ類はすべて禁止されているが、煙草は年齢制限なし。
(注3):欧米で流行っているSNSの一種。友人の輪が広がるシステムになっているのは良いが、私生活が公表される怖れがあることが問題になっている。


≪夏樹(なつき)/プロフィール≫
フリーランス・ライター。在仏約20年。パリの日本人コミュニティー誌「ビズ・ビアンエートル」や日本の女性誌に執筆。この事件以降、首謀者たちは一斉に親から大目玉をくらい、謹慎中。ソワレはクリスマスまで参加禁止、携帯電話の没収、インターネット一ヶ月厳禁、土日の外出禁止など、キビシイ処分が飛び交った。