5:アンデスの青空トイレ/ペルー

私が初めてその現場を目撃したのは、アンデスを長距離バスで移動した時だった。長旅でやっと得たトイレ休憩。バスの乗客はたった一つしかないトイレに押しかけ、列を作る。しかし薄暗い小屋は電気もなく不衛生で、見ただけで気が滅入るものだった。

その時、トイレの裏側に地元の女性が屈んでいることにふと気がついた。アンデスの女性が身に着けるスカート、ポジェラを大地に広げている。裾が砂で汚れるのに、と気になっていると彼女はすっと立ち上がり、何処ともなく去っていった。乾いたアンデスの大地で、彼女がいたその部分だけが濡れていた。

私は母なる大地に残されたシミより、彼女の自然な動きに心を奪われてしまった。彼女のポジェラは美しい目隠しとしてその機能を十二分に発揮し、しゃがんでいる姿は野の花を愛でる少女のように自然にとけ込んでいた。一方、その素早く無駄のない動作は野生動物をも髣髴させ、アンデスに生きるものの力強さを垣間見せてくれたのだった。

どこまでも広がる青空、頬をなでる優しい風、遠くに聳える美しいアンデス。ここに暮らす人々は自由で大らかだ。狭い仕切りを探して右往左往するほうが滑稽に見えるほど、あっけらかんとしている。アンデスの青空トイレ、それは感動的ですらあった。

はらだ・けいこ/プロフィール

ペルー・リマ在住フリーランスライター。日本人の知らないペルーの魅力を多方面に発信中。ウェブサイト:http://www.keikoharada.com/