266号/西川桂子

カナダには『バンクーバー新報』という邦字週刊新聞があった。

“あった”と書いたのは、2020年4月30日号で紙の新聞は廃刊になったためだ。創刊1978年で、当初は手書きで書いたものを印刷するガリ版印刷で、ニュース源は港に停泊する日本の船に無線で届く船舶通信。土産物を売りに停泊中の船に出入りしていた人が創刊者の知人で、捨てるという通信をもらってきて、それを新聞としてまとめて、日本人街の店に無料で500部置いたところ人気になったという。

それから41年間、休刊することなく、毎週、当地の日系・日本人コミュニティにニュースを届けてきた。私が日本からカナダに移住したのが1994年。当時は今のようにインターネットが普及していなかったので、日本で何が起こっているのか分からなかった。日本語の新聞、バンクーバー新報を見つけたとき、とても嬉しかったことを覚えている。

その後、縁があって、バンクーバー新報で記者もさせてもらった。おかげで、歴代日本国総領事やエッセイストの桐島洋子さん、外交評論家の岡本 行夫さん、カナダ人では環境運動で有名なデヴィッド・スズキさんといった日本でも知られた人たちにもインタビューすることができた。

創刊者で社主の津田佐枝子さんは70歳を超えたころから「そろそろ引退を考えている」と冗談めかして話すことがあったが、今年になって「夏には引退して、バンクーバー新報も廃刊にする」という予定を聞いた。いよいよ来たかと思うと淋しかったし、残念に思った。

3月にカナダでも緊急事態宣言が出て外出自粛となったために、バンクーバー新報が休刊。同時に3つあった他の日本語コミュニティ誌も入手できなくなった。そんな中で「インターネットや日本語テレビがあるので、日本で何が起こっているのか分かるけれど、英語ができないのでカナダがどうなっているのか分からない」という声が聞こえてきた。バンクーバー新報を引き継げないかと思い始めたのはその頃だ。

幸い記者仲間の一人も同様の考えということで、津田社主の協力で二人でタスキをつなぐことになった。ただし紙ではなくオンラインのみでの運営だ。

始めてみると、想像していた以上に大変だ。新しいことに挑戦することは楽しいものの、正直、「しんどい!」と思うこともしばしばだ。でも乗りかかった船と、とりあえずは頑張っている。

(カナダ・バンクーバー在住 西川桂子)