「水で洗ったほうがきれいになる」トイレットペーパーを使わないインド人に尋ねると、こんな返事が返ってきた。洗浄機能がついた便座が当たり前になった今、確かに頷ける答えではあるが、問題はその「やり方」である。
インドのトイレは、ガイドブックでも写真付きで紹介されるほど、衝撃を与えてくれる。もちろん、国際空港やホテルなどは洋式で、トイレットペーパーが常備され清潔だ。しかし、一歩街中に足を踏み入れると、インド式が待っている。ペーパーはないことが多く、洋式トイレの場合、ホース付き洗浄器か、足元に水が出る蛇口があり、手桶が添えてある。
ホースは右手で持ち、ノズルを近づけ噴射して洗うが、この時、必要に応じて左手を使う。手桶の場合は、蛇口の水をくみ、右手で桶を持ち、左手で水を受けて洗う。人々は洗うことに慣れているため、ペーパーの有無は重要ではないが、手洗い場の石鹸は不可欠だ。和式トイレでも洗い方は同じだが、稀に蛇口がなく大きなバケツに水がはってあることもある。
変わったトイレとしてこんなものもある。洋式と和式のコンビネーション型で、洋式として座れるが、便座の上に「足場」をおろすと、和式のようにしゃがめるのだ。しかし、トイレの縁に両足をかけてしゃがむのは、実に落ち着かない。また、筆者が驚愕したトイレは、個室内に手桶と蛇口しかないというものだ。よく見ると、床の隅がやや傾斜して排水口があるが、どこでどうしたらいいものか非常に困った。今考えれば、どんなスタイルでもよい「青空トイレ」のようなものだったのだろう。ちなみに低所得者は今でもこの青空トイレを利用していて、朝、水の入ったペットボトルを片手に草むらへ向かう姿をよく見かける。
ここ数年でトイレ事情も随分と改善されたが、いまだに公衆トイレの悪臭はひどく、観光地のトイレも発展途上だ。使用方法は、国民性を尊重するとして、衛生面だけでも頑張って欲しいものだ。
≪さいとうかずみ/プロフィール≫
やむなく住むことになった日本人が口をそろえて「一番しんどい国だ」とため息をつくほど過酷な国らしいインドに暮らして早4年。インドに同化するどころか、いくら歩みよっても漸近線のごとく決して交わることのない文化の違いに、むしろ感嘆している毎日。サルに噛まれた直後に子供を授かり、猿の姿をしたヒンドゥーの神様のお陰だと信じ、神が宿ると言われる子供と激しく格闘しながら執筆活動中。