第6回(最終回)ガールズ・パワー

今年はロンドン五輪があった。

種目に女子ボクシングが加わり、全競技で男女の種目が実施された。

日本代表でも、女子選手数が男子選手数を上回った。人数だけでなく、バドミントン、サッカー、レスリング、柔道、卓球、バレーボール、競泳などの種目で日本女性が活躍し、多くのメダルを獲得したのは記憶に新しいところだ。

日本と同様にロンドン五輪の米国代表も女子選手数が男子選手を上回った。

米国の子どもスポーツ界でも、女子選手たちが活躍している。小学生女児たちが、アイスホッケー、サッカー、野球(後にソフトボールに転向するケースが多いようだ)といったこれまで男性色が強かった種目でも活躍している。男子顔負けの運動能力を発揮している超小学生級の女子選手たちの姿も何度か目撃した。

彼女たちの多くはスポーツグッズで「女の子らしさ」をアピールしている。サッカーや野球で使用するスパイクにはピンクのライン。アイススケートにはピンクの靴ひもでアクセント。サッカーボールはピンク×白や、ピンク×シルバーなどを買い求め、野球のバットもピンクのライン入り。“まっピンク”のヘルメットを着用している。

スポーツ用品店に行くと、これらの女の子グッズの品ぞろえの豊富さに驚く。ガールズ・スポーツアパレル業界は、初めてスポーツをするような幼児や小学生女子の心をわしづかみにしているのだろう。

米国では1972年、ニクソン大統領が教育改革法第9編に署名。性を根拠に、連邦政府から補助金を受けている教育プログラムの参加から排除されないことなどを謳っている。これが瞬く間に学校スポーツにも適用され、大学スポーツでは、性別にかかわらずスポーツ機会を提供しなければならないという流れができた。

これにより大学スポーツへの女子の参加者が急激に増えたという。高校でも女子のスポーツ参加は1980年度には約185万人だったのが、2008年度には約311万人になっている。その間に、男子も約350万人から442万人と増えているものの、男女別の増加率の違いは明らか。スポーツ用品やアパレル業界が、女の子向け商品の販売に力を入れるのも理解できるような気がする。

そういえば、20年ほど前、私が日本で学生をしていたときに、「スポーツとジェンダー」という講義を受けた。あのとき、私が頭の中で描いていたのは、女性らしさと運動選手としての役割に悩む女子選手というもの。

しかし、21世紀生まれの少女アスリートたちは見事なまでに、そのステレオタイプ的なイメージを打ち破ってくれた。社会における「女性らしさ」の概念が変わったこともあるのだろう。彼女らはキリリとポニーテールを結わい、お気に入りのピンクを身につけて躍動感にあふれている。すがすがしい。

谷口輝世子/プロフィール
デイリースポーツ社で1994年よりプロ野球を担当。1998年に大リーグなど米国スポーツ取材のために渡米。2001年よりミシガン州に移り、通信社の通信員などフリーランスとして活動。プロスポーツだけでなく、米国の子どものスポーツや遊び、安全対策、スモールビジネス事情などもカバーしている。著書『子どもがひとりで遊べない国、アメリカ』(生活書院)、『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)、章担当「スポーツファンの社会学」(世界思想社)。主な寄稿先 「月刊 スラッガー」(日本スポーツ企画出版社)、体育科教育(大修館書店)