3. 体罰禁止を指導者研修で徹底/カナダ

日本の高校3年生に相当する息子は、小学1年生からアイスホッケーを続けている。学校とは関係のない市単位の“マイナーリーグ”と呼ばれるものに所属していて、コーチのほとんどが保護者のボランティアだ。夫も息子が1年生から5年生まで、コーチとしてチームの手伝いをしてきた。

少々、驚いたのが、就任時と就任後は数年ごとに講習を受ける必要があったことだ。練習メニューの立て方などを教えてもらうのかと思ったら、応急処置法の資格取得に加えて、“子どもを肉体的、精神的に傷つけるような行為”に関する半日間のワークショップを受講していた。

「殴る、蹴る、髪を引っ張る、つねるなどの体罰は禁止」「怒鳴るのもNG」、「ヘルメットなど、用具を投げつけたりしてはいけない」「コーチの言うことを聞かないと、あるいは試合でミスをすると、XXさせるぞというような、脅し文句は使わない」、「肌の色や性別などに対する発言は行わない」、「チームメートにわざと特定プレイヤーを攻撃するように指示してはいけない」。ワークショップで使った資料には、体罰に対する注意事項が具体的に挙げられていた。また、これらについては“年齢に関係なく”と但し書きがあったことから、アイスホッケーのマイナーリーグの最終年にあたる18歳まで、明確に禁止されているようだ。

しかし、言うことを聞かないときとか、たとえばチームメートに暴言を吐くなど、子ども側に問題があり、コーチが怒る、あるいは強い態度を示すこともあるだろう。そのようなときも、暴力はNGだから、コーチはただ我慢するのだろうか? それではちょっと気の毒だし、どうやってチームを率いていくのだろう。聞くと、個人に対する懲罰的な処分は存在していて、1試合出場停止というのが一般的だ。チームに対するものでは、反復ダッシュをさせられるそうだ。

反復ダッシュについては、かつてリンクにバケツを置いて、吐くまで何十回、何百回とアイスリンクの端から端までダッシュを続けさせる、猛烈コーチもいたらしいが、大問題になった。コーチ向けのワークショップでも、このエピソードが登場して、行き過ぎた懲罰的な練習は行わないようにと釘を刺された。

大阪の男子生徒の体罰事件以来、日本では次々に体罰事件が明らかになった。反対派と擁護派の双方の主張を目にするが、体罰は暴力以外の何者でもないというのが私の意見だ。夫はワークショップの後、「チーム指導に暴力は用いないという常識的な話で、半日つぶれてしまった」とぼやいていたが、講習には歯止め効果もあるだろう。特に教育現場での体罰撲滅を目指すのであれば、研修導入も一案かもしれない。

≪ふじき・みきこ/プロフィール≫
バンクーバー在住のフリーランスライター、翻訳者。小学1年からアイスホッケーを始めた息子も、今シーズンでマイナーホッケー(18歳まで)から卒業。試合や練習は親が連れて行っていたので、ホッとする反面、ちょっぴり淋しい。